31 / 272
親友転序
親友転序<12>
しおりを挟む<千尋side>
「『可愛い』って思ってもらえるのも、それを言ってくれるのもすごく嬉しいけど、私、ペットじゃないもん……」
つんと唇を尖らせた彼女の横顔を盗み見る。
本人は苦々しく思ってるかもしれないけど、少し滲んだアイラインも、お化粧室行くたびに直してくれたんだろうなってひと目でわかるつやつやなリップも、一日一緒にいたことの証明みたいで嬉しい。
「あはは! わかってるわかってる!」
笑い飛ばしていつも通りを装ったけど、正直、一日でここまで意識してもらえるのは予想外だった。
どれだけ俺が自分に自信があって、うまいことアピールできていたとしても、それが彼女に響いてくれるかどうかは未知数だし賭けだったから。
「でも、可愛すぎてまた連れて帰りたくなっちゃう♡♡」
真夏の室温でドロドロに溶けたチョコレートみたいな声が出たのは自分でも予想外だったし、攻めすぎかと思わなくもないけど、引いてばっかりじゃらしさに欠けるし、残された時間が少ない以上、ここらで勝負に出ないとね。
かの有名なシンデレラは日付が変わった直後に魔法が解けちゃったけど、俺たちが期間限定で結んだ恋人契約もきっかり夜の十二時で終了なのかな。
今度は合意の上でお持ち帰りして、イチャイチャタイムに持ち込むことができたら、夜の十二時越えても魔法が解けずに済むのかな?
「……鏑木くんだったら、連れて帰ってもいいよ? 私のこと……」
センチメンタルな気分で返事を待っていると、小さな唇が開いた。
騙されてもいいやって気になっちゃうくらい綺麗な微笑は、視界に収まる女神像なんかよりずっと女神然としていた。
「そういう風に言ってきてくれるってことは、俺に可愛がられる覚悟も出来てると思っていいの? 『連れて帰る』って、そういうことだよ? ちゃんとわかってる?」
「覚悟……っていうか、可愛がってほしいなあって思ってるよ?♡」
積極的な台詞に耳を疑ったけど、恋愛対象を前にした彼女は前々からこうだというだけなのかもしれない。
とりあえず第一関門は突破できたと思っていいのかな。
「…………海の近くっていいよね。好き」
照れ隠しなのか、彼女は急に話題を変えた。
「でも、べたべたしちゃうのだけは苦手だなあ。顔とか腕とかぺたぺただよ~……」
「これからの季節は特にそうかもね。少し移動するだけでめちゃくちゃ汗掻くし。ナイアガラ瀑布にでもなった気分!」
「さすがにそこまでは……! あははっ、鏑木くんっていちいちスケール大きいよね?」
「小さくまとまってられませんから♪」
口元を押さえて笑う彼女を眺めていたら、またしてもいまのシチュエーションにぴったりの殺し文句を思いついてしまった。
1
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。


マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる