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親友転序
親友転序<12>
しおりを挟む<千尋side>
「『可愛い』って思ってもらえるのも、それを言ってくれるのもすごく嬉しいけど、私、ペットじゃないもん……」
つんと唇を尖らせた彼女の横顔を盗み見る。
本人は苦々しく思ってるかもしれないけど、少し滲んだアイラインも、お化粧室行くたびに直してくれたんだろうなってひと目でわかるつやつやなリップも、一日一緒にいたことの証明みたいで嬉しい。
「あはは! わかってるわかってる!」
笑い飛ばしていつも通りを装ったけど、正直、一日でここまで意識してもらえるのは予想外だった。
どれだけ俺が自分に自信があって、うまいことアピールできていたとしても、それが彼女に響いてくれるかどうかは未知数だし賭けだったから。
「でも、可愛すぎてまた連れて帰りたくなっちゃう♡♡」
真夏の室温でドロドロに溶けたチョコレートみたいな声が出たのは自分でも予想外だったし、攻めすぎかと思わなくもないけど、引いてばっかりじゃらしさに欠けるし、残された時間が少ない以上、ここらで勝負に出ないとね。
かの有名なシンデレラは日付が変わった直後に魔法が解けちゃったけど、俺たちが期間限定で結んだ恋人契約もきっかり夜の十二時で終了なのかな。
今度は合意の上でお持ち帰りして、イチャイチャタイムに持ち込むことができたら、夜の十二時越えても魔法が解けずに済むのかな?
「……鏑木くんだったら、連れて帰ってもいいよ? 私のこと……」
センチメンタルな気分で返事を待っていると、小さな唇が開いた。
騙されてもいいやって気になっちゃうくらい綺麗な微笑は、視界に収まる女神像なんかよりずっと女神然としていた。
「そういう風に言ってきてくれるってことは、俺に可愛がられる覚悟も出来てると思っていいの? 『連れて帰る』って、そういうことだよ? ちゃんとわかってる?」
「覚悟……っていうか、可愛がってほしいなあって思ってるよ?♡」
積極的な台詞に耳を疑ったけど、恋愛対象を前にした彼女は前々からこうだというだけなのかもしれない。
とりあえず第一関門は突破できたと思っていいのかな。
「…………海の近くっていいよね。好き」
照れ隠しなのか、彼女は急に話題を変えた。
「でも、べたべたしちゃうのだけは苦手だなあ。顔とか腕とかぺたぺただよ~……」
「これからの季節は特にそうかもね。少し移動するだけでめちゃくちゃ汗掻くし。ナイアガラ瀑布にでもなった気分!」
「さすがにそこまでは……! あははっ、鏑木くんっていちいちスケール大きいよね?」
「小さくまとまってられませんから♪」
口元を押さえて笑う彼女を眺めていたら、またしてもいまのシチュエーションにぴったりの殺し文句を思いついてしまった。
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