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親友転序
親友転序<9>
しおりを挟む「お洒落ってことだね。そういうことなら、借りちゃおうかな?」
納得した彼女が、やっと握り締めていた拳を開いてくれた。
「どうぞどうぞ」
直接巻いてあげたい気持ちを抑えて、その上にフーディーを乗せる。
「……あったかいし、落ち着く♡」
フーディーを腰に巻き付けた感想のはずなんだけど、ハグされたときみたい。
確かに間接キスならぬ間接ハグみたいな状態かもしれないけど、君さえ望んでくれれば、いつだって力いっぱい抱き締めてあげるのに。
「鏑木くんって、動物好きなの?」
小動物さながらの彼女に訊かれて危うく頷くところだったけど、いけないいけない。
嫌いではないけど、好きってほどでもないからね。
「動物? 人間よりは好きかな?」
「え? あ……えっと、意外だね? いつも誰かといるイメージだったから……」
「ん? ああ、そういうこと! 服のデザインの話かと思った。本物の動物の話だったんだ?」
怖がらせちゃったかな。即答だったし、ものすごい人間嫌いの人だと思われててもおかしくないかも。
「デザインの話だよ? いつも可愛い耳付きのパーカー着てるから、全般好きなのかなあって思ったの」
どうやら『動物モチーフの服を愛用しているから(本物の)動物が好きなのか』ということを聞いていたらしい。
「そっか。同じことについて話してたのに噛み合わないとか、レアで面白い経験できちゃったね?」
「ふふふ。そうかも。…………好き?」
さっきの答えが服のデザインに対するものだったから聞き直したいってことなんだろうけど、主語を消したのはどういう意図があってのことなのかな。
「好き♡」
まあ、乗ってあげるけど♡
少しはドキッとしてくれるといいな。
「……そういう紗世ちゃんはどうなの?」
「え? 私?」
「うん。紗世ちゃんって犬とか猫とかと一緒にいるの似合うし、好きそうだなあと思って。飼わないの?」
「んー……。結構好きだし、飼いたい気もするけど、家空けられなくなっちゃうから……。鏑木くんこそ飼わないの? 優しいし、向いてそう!」
「確かに可愛いなあと思うし、寂しさが極まってるときは飼っちゃおうかなって考えたこともあったけど、あの子たちは口が聞けないから、嫌なことも嫌って言えないでしょ。全部気付いてあげられる自信ないから、俺には飼えないと思ってやめたよ」
なんて真面目くさった回答も嘘じゃない。
……けど、彼女以上に可愛いと思える存在なんてどこを探してもいないし、時間もお金もエネルギーも全部この子に注ぎ込みたいって観点からも、ペットを飼うって選択肢は自然に消滅した……っていうのが本当のところだったりして。
「そっかあ……」
進行方向を見つめる彼女は何を思っているんだろう。
『いろんな男と関係を持ってるのも、独り寝が苦手だからだったりするのかな』なんて考えてしまうような、寂しげな横顔だった。
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