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親友転序
親友転序<4>
しおりを挟む「もう着いちゃった。もっと手繋いでたかったな……」
自動ドアが開くのと同時に拗ねたように頬を膨らませる彼は、たいそう可愛らしかった。
「私も。あとでまた繋ご?」
手と手が離れたことよりも、設置された消毒用のアルコールに彼の手の質感を上塗りしまったのが寂しくて、自然とそんな言葉が出てきた。
「もちろん! ……そういえば、大丈夫? 気分悪くなったりしてない?」
すると、彼は胸元に視線を落とし、ひそひそ声で尋ねてきた。
「心配してくれてたんだね。ありがとう。大丈夫だよ」
「よかった! いい感じのデート服、あるといいね」
彼は事あるごとに『今回のお出掛けは今までとは違うもの』なのだと意識させてくる。
「鏑木くん。そのことなんだけど…………」
「ん?」
鏑木くんの彼女になりたい女の子なんていっぱいいるだろうに、単なる遊び相手や次の恋人が出来るまでの繋ぎとしてではなく本気で付き合いたいと思ってくれている……なんて風に自惚れてもいいのだろうか。
「もし面倒じゃなかったら、私の服、見立ててくれないかな?」
「面倒なはずないじゃん! 俺が決めちゃっていいの?」
「うん。……実は、彼氏に全身コーデしてもらうの夢で……」
思い切ってわがままを口にしてみたら、彼は口元を綻ばせた。
「そうだったんだ? やっぱり紗世ちゃんの好みに合わせに行ったほうがいい? いや、紗世ちゃんがまだ気付いてないっぽいけど絶対似合う感じの服にするべきかな? まあ、俺の趣味に走っていいって言ってくれるんだったらそうするけど…………」
彼は口と同時に視線をあちこちに動かして、すでに探索を開始しているらしかった。
「どういう決め方でもいいよ? でも、『今日一日、こういう恰好した私と一緒にいたいな』ってイメージで選んでもらえたら嬉しいかなあ、なんて……」
思いの外乗り気な様子にほっとして、わがままを重ねてみる。
「はいはい、なるほどね! 今ので一気にイメージ固まったかも!」
「すごい! 早いね」
「まあね。このお店にイメージ通りの服があるかはわからないけど、紗世ちゃんが快適に過ごせるように頑張るよ」
「ほんとにありがとう」
「お礼言うのはまだ早いって! 『ありがとう』は俺の考えた最強のコーディネートが完成してから。……ね?」
口の前で人差し指を立てた彼の脳内には、頭の先から爪先まで彼の見立てたもので固めた私が佇んでいるのだろうか。
「サイズわかんないから、一緒にいてくれる?」
「最初から離れるつもりないよ? せっかく彼氏と来てるんだから」
と言うと、アイスティーの瞳が煌めく。
邪魔にならない程度にくっついて広い店内を歩き回るのはとても楽しくて、時間は飛ぶように過ぎていった。
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