yours-夢の罪過-

片喰 一歌

文字の大きさ
上 下
22 / 270
親友転序

親友転序<3>

しおりを挟む

「確かに。でも、今言われて思ったんだけど、たぶん『It's you.』ともかかってるんじゃないかな? ……っていうのも、そもそものブランド名がさ…………」

 首の後ろをぺろんと捲って見せてくれたタグには、『yours』というロゴが躍っていた。

「鏑木くんが好きなブランド、『yours』っていうんだね?」 

「そうそう。フォントもお洒落だし、すっごくいい名前だと思わない? 『あなたのもの』ってさ……♡ 名前込みで好きなんだよね♡♡」

 流し目の彼には、色っぽいという言葉がぴったりだ。
 
 デートの予定があるにもかかわらず寝坊して、急いで身支度を整えているときのように、動揺と高揚で心臓が忙しい。
 
「そう……だね?」

 投げかけられた意味深な視線の理由を考える前に、偶然か計算か、腕と腕がぶつかった。

「…………手、繋いでいい? 人通りも多いし、並んで歩いてるだけじゃ、これまでとなんにも変わんないからさ」 
 
「言われてみれば、そうかも……! えっと、よろしくお願いします?」

 はにかんで差し出した手を、彼は緩く握った。

「うん。改めてよろしく!」
 
 身長差はそこそこあるから、彼に合わせて少し腕を上げる形にはなってしまっているけれど、きゅっと繋がれた手は、互いに吸い寄せ合うようによく馴染んだ。
 
 ――――肌を合わせるのが今から楽しみセックスの相性も期待できそうなんて、彼には悟られないようにしなければ。

「言い忘れてたけど、今日は俺のこと彼氏だと思って過ごしてね? 俺も紗世ちゃんのこと、彼女扱いさせてもらうから♪」

 今にもスキップし始めそうな彼のいう『彼女扱い』とは、具体的にはどんな感じなんだろう?

「……あ、確かにそうしないと意味ないよね? しかも、そのほうが楽しそう! 恋人になったときのリハーサルみたいな」

「でしょ? そしたら、カップル限定のイベントとかにも参加できるしさ」

「あ、そっか! でも、そんな都合よく開催してるかなあ?」

「してるかもだし、イベントはなくてもカップル限定メニューが置いてあるお店は結構多いんじゃない? なかったらなかったで、ベタなことしちゃうのもいいよね」 

 歩幅だけでなく、できる限り視線を合わせていてくれる彼に、早くもときめきが抑えられない。

「ベタなことって、例えば?」

「飲み物シェアしたりとか?」

「私たち、好み合うもんね?」

「それもあるし、人生で一回くらいは彼女とハートのストローで可愛い色のジュース飲んでみたいじゃん……!」

 と彼は熱っぽく訴える。恋人との過ごし方には一家言ありそうだ。

「ハートのストローって! 確かに定番っぽいけど、今時あるかなあ?」

 思わず吹き出すと、つられて彼も破顔した。

「ないと思って油断してない? あったら絶対付き合ってもらうからね?」

「いいよ。……ていうか、そのくらい何回でも付き合うし……」

「ほんと? 約束ね?」

 陽の光の下で見る双眸はより美しくて、その願いを叶えてあげたいと強く思った。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

ナイトプールで熱い夜

狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...