yours-夢の罪過-

親友転序

親友転序＜2＞

「……もしかして、私をデートに誘おうとして、お洋服洗っておいてくれたの……？」

　一瞬でも『このまま行為に雪崩れ込んでしまうのか』と勘繰ってしまった自分が恥ずかしい。
　
　もし彼がデートに漕ぎ着けるためにわざわざ服を着替えさせたのだとしたら？　

「そんなことしなくてもOKしたのに！」

「え……？」

　絶対に気付かれない自信があったのかな？

　私だってデートに誘われてなければ気付かなかったと思うけど、彼はしきりにまばたきをしていて、開閉のたびに効果音をつけたい衝動に駆られる。

「私たち、今まで二人で色んなところにお出掛けしてたでしょ？　断るわけないのに」

「…………ああ！　確かに、今までも二人で出掛けてたね？」

「そうだよ！　かなり遠くに行ったこともあったでしょ？」

「あったね。もう二年くらい経つっけ」
　
　優しさに溢れた横顔の彼と過ぎし日の助手席からの眺めが重なった。
　
「……あ、そうだ。まだお礼言ってなかったよね？　泊めてくれただけじゃなくて、お洗濯までしてくれてありがとう！　それと……」

「それと？」　

「今日も私と一緒にいてくれる？」

「もちろん！　楽しい一日にしようね」

　改めてお誘いしたら、さわやかな笑顔の彼が拳を突き出してきた。
　
　どこからどう見ても気の合う友人らしい仕草に安心して、こつんと拳を合わせた。

　いつもとは違うけれど嗅ぎ慣れた匂いのするワンピースに着替えて、コスメポーチの中身をフルに使い、手抜きに見えない簡易的なメイクをしたら、彼の待つ玄関へ急ぐ。

　姿見に寄ったり離れたりして全体のバランスをチェックしていた彼は、お決まりのパーカーに身を包んでいた。
　
「今日は何のパーカー？」

「これ？　六十花甲子ろくじゅっかこうしシリーズ、第二十二段の…………」

　よくすらすら出てくるものだと感・心・したけれど、最も関・心・を引いたのは――――。

「ろくじゅ……ええっ！？　全部で六十種類もあるの？」

「全種類集めれば、六十着になるね」

「集めてないの？」　

「さあ、どっちでしょう？　俺、そんなに衣装持ちに見える？」

　『服をたくさん持っていること（またはそういった人）』の意だと承知していても、普段着らしくない彼の普段着は衣装と呼ぶにふさわしい。

「見えるけど、どうだろ…………あ、遮っちゃってた！　ごめんね？　続き教えてくれる？」

「いいよいいよ。えーっと……。あ、そうだそうだ。俺が今着てるのは、乙酉いつゆうモデルだよ！」
　
「え？　『It's you.』？」
　
　唐突に飛び出した英語に驚いて聞き返したら、楽しそうな声が返ってきた。

「ああ、確かに英語っぽく聞こえるね。乙酉いつゆうっていうのは乙酉きのととりと同じだよ……って言ったらわかりそう？」

「あ、『きのと』と『とり』ならわかるよ！　読み方が違うと、雰囲気も結構変わるんだね？」

　と返事する傍ら、『私たちも恋人になったら何かが変わるのかな』なんて、ひそかに考えたりして。