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最悪の目覚め
最悪の目覚め<14>
しおりを挟む「介抱…………? 介抱か……。なるほどね?」
彼は顎に当てた手を、ない髭を探すみたいに上下に何度も往復させている。
あれ? 違うのかな? でも、それ以外に考えられないんだけど……。
「だって、身体を締め付けてる服を楽にしてあげるのって、介抱の基本でしょ? ……あのワンピース、ちょっとサイズ合ってなかったの……。鏑木くんはそれに気付いて、着替えさせてくれたんじゃないかなあって思ったんだけど……」
「…………ああ、確かに窮屈そうだったね。胸のところだけ」
「!」
彼の視線が組んだ腕の下に潜り込んでくるようで、身体が強張った。
いつもの彼じゃないみたい。
「……ねえ。こういうことって、よくあるの?」
尋ねてくる声には、静かな憤りが感じられた。
「こういうことって?」
「んー? 酔って、前の日の記憶失くしてること?」
一触即発の雰囲気にびくびくしながら問いかけたけれど、彼はあっさり答えた。
「昔はよくあったよ。……記憶失くしててもなにがあったかすぐわかっちゃう感じだったから、最近は反省して、飲みすぎないように気を付けてたんだけどなあ……」
「『なにがあったかすぐわかっちゃう感じ』? …………ああ、うん。知らない人にお持ち帰りされてたってことか。よくあるお酒のトラブルだ。まあ、生きてればそういうこともあるよね?」
淡々とした声からは感情が抜け落ちていて、まったく締め付けられていないはずの胸が、ひどく痛んだ。
恋愛相談は何度もしてきたし、直接話したわけではなくても、鏑木くんは私がどんなだらしない女なのかも前々から把握していたはずだ。
それでも、彼に軽蔑されるのは、見放されるのは、絶対に避けたいと思った。
――――どうしてかもわからないし、とっくに手遅れかもしれないけれど。
「……引いた?」
「ううん。言ったじゃん。『生きてればそういうこともある』って」
「…………でも、なんか怒ってる……よね?」
「そうだね。俺は確かに怒ってる。紗世ちゃんが自分の身体を大切にしてくれないことにも怒ってるし、この期に及んで紗世ちゃんが俺を信じてくれてることにはもっとイライラしてる」
彼は終始笑顔を張り付けていたけれど、その声はだんだんと低くなってきている。
「ひとつめはわかるけど、ふたつめはどうして……?」
「『恋愛対象外』って言われてる気がして。……一応訊くけどさ、俺が君をお持ち帰りしたんじゃないかとは考えなかった?」
笑みを消し、近付いてきた彼は、男のひとの顔をしていた。
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