Temptation Invitation

第1幕『半人半蛇（蛇人間）』【裏】

第49話『empty, empathy』

「？　うん……。そうだね？」

　白夜は何の話が始まったのか掴めていないようで、小首を傾げている。正直なところ、あたし自身にもわかっていないが、話しているうちになんかいい感じに収束してまとまってくるだろう。きっと。
　
「……寂しい気持ちって、一回自覚しちゃうとなかなか消えないよね。寂しくなくなったあとも、何回も何回もしつこく思い出す。もう寂しくないのに、寂しい気がする。もう独りじゃないのに、ずっと独りな気がする。もしこの先ずっと一緒にいられたとしても、ぽっかり空いちゃった部分が塞がることはないかもしんない」

　愛しの白蛇様とお揃いの赤い瞳のみならず、白目の部分も少し充血しているように見えるのは、彼が涙を堪えているからなのか。見逃してしまっていただけで、すでに彼は泣いたあとなのかもしれないが。

「簡単にわかられたくなんかないだろうけど、あたしも友達いない側の人間だし、寂しい思いしてきてないかしてきたかで言ったら、まあそれなりにしてきたほうでさ……。多少はわかるんだぁ。いたい人といれない寂しさだけじゃなくて、本当の本当に誰も傍にいてくれない寂しさも」
　
　白夜は首を横に振って、そのあと大きく頷いた。共感を寄せられることは、彼にとって少なくとも不快なことではないらしい。

「…………本当だったら、たくさんたくさん愛を周りから与えられてきた人が、あげてもあげてもなくなんないくらいの愛で、愛に飢えてる人を癒してあげれたらそれがいちばん上手く行くのかもしんないけど。……あたしは誰にも渡したくないって思っちゃった。白夜のこと愛して愛して愛しまくる役割！」

　胸が揺れるのもお構いなしに、あたしより寒さを感じてきたであろう彼の胸に飛び込んだ。薄い胸は意外なほど柔らかく突撃してきたあたしを受け止めてくれた。

「！」

（突然だったのに、直前に背中丸めて衝撃殺してくれたんだぁ♡♡ あたしってほんっっっと～に見る目ある～♡ こんな最高のオトコ逃すわけないじゃん♡♡）

　突然の抱擁を受けた白夜は、恐る恐る背中に腕を回してきた。

「だって、ぴったりだと思わない！？　蛇ちゃんが大好きで、ちんぽ二本持ってるオトコ探してただけじゃなくて、『愛が重い』って言われ続けて、何回も何人にも振られてきたオンナだよ？♡♡ …………で、ここからはあたしの希望なんだけど――♡♡」

　ちらりと彼を見つめて、わざと言葉を切った。

「……グミちゃん？　続き、聞かせてほしいんだけど……」

　まんまと策略にハマってくれた白夜は、おろおろと眉を八の字にしている。

「じゃあ、もっと思いっきりぎゅ～ってしちゃってよ♡♡ 今は蛇ちゃんじゃないから余裕でいけんじゃない？♡♡」

「……そっか。本当は蛇の姿で巻き付かれたかったんだもんね……」　

「まぁ、長年の……でもないかもだけど夢だからね！　でも、今はどんな姿でもいいから、今度はあたしからじゃなくて白夜からぎゅ～ってしてほしいなぁって思っただけ♡♡」

　背中に回していた腕を首の後ろに移動させ、指先でうなじをひと撫でした。