Temptation Invitation

第1幕『半人半蛇（蛇人間）』【裏】

第48話『Symphony No.5 in C-minor』

「…………もちろんムラついてたけど、観るだけでも満足感はあったよ。あったけど、完全にスッキリは出来なかった。でも、実・践・はずっとご無沙汰。好きか嫌いかで言ったら断然好き派だけど、蛇ちゃん愛でてるだけでも時間カツカツなのに人間のオトコになんか割いてらんないし！　てか、好きなオトコ出来たとしてもさ――」

　焦燥は早口に変わり、渇望はふたつの意味で悩ましげな吐息へと姿を変えた。

「『ちんこは一本だから』？」

「そう♡♡ 二本で攻められたきゃ男二人連れてきてズコバコすればいいって思うじゃん？　口もずっと塞いでてほしいんだったら三人？　……でも、あたしは好きなオトコとしかしたくないし、同時に二人以上好きになるとかも無理だし…………」

　下瞼に溜まった涙のせいで、白夜の股間に二本あるはずのモノがそれ以上に分身して見える。

「僕はグミちゃんの理想の相手ってことだね」

　説明を聞く間も惜しいとばかりに、白夜は簡潔に結論を述べた。

「うん♡♡ 白夜の顔もカラダも声もぜ～んぶあたし好みだし、たぶん性格も好きだし、ちんぽ二本持ってるだけじゃなくて半分くらいは大好きな蛇ちゃんだし♡♡ ……白夜があたしのことどう思ってるかはわかんないけど、こっちは勝手に運命感じちゃってる♡♡♡」

　押し付けられた先端からぬめった感触がしてきた。――いつ出てきたのだろう。他のことに気を取られていただけでとっくに出ていたのかもしれないが、嬉しいことには変わりない。

「勝手なんて寂しいこと言っちゃ嫌だよ。運命なら僕だって感じてる。…………諦めてたんだ。このままずっと気味悪がられて、誰にも受け入れられてもらえないだけじゃなく、クラウン以外とまともに会話はなしたこともないまま死ぬのかなって……」

　泣きそうな声ひとつ残して、白夜は性器をどけた。
　
　人間関係なんて煩わしいだけだと思っていたが、裏を返せば、それだけ実生活で関わっている人が多いということになる。その繋がりは、自分を社会延いては世界の一員であるという自覚を与えてくれるものだ。

　通常、何らかの仕事に従事していれば受けられるはずの恩恵のひとつに数えられるはずだが、白夜の場合は――――。

（ずっと一人みたいなもんだよね…………。あたしの恋人ごっこに付き合ってもらうより先に、すべきことがあったんじゃないかっていうのは今更かなぁ……。てか、余計なお世話？）

　思考を現実に切り替えたせいだろうか。急に肌寒さを感じるようになった。

（でも、首突っ込んじゃったからには放っておけないしさ～……。てか、単なる推しとかじゃないんだって！　好きなオトコが悲しんでんのになんもしないとか無理だよ！！）
　
　寂しいと寒く感じる――――というのは、もしかしたら因果関係が逆なのかもしれないが、白夜の感じてきた寂しさや寒さは、今あたしが感じているよりもずっと長くて厳しいものだったはずだ。

「話ちょっと聞いただけのあたしには、今まで白夜がどんな風に過ごしてきたかもどんな気持ちでいたかもわかんない。……わかんないのは寂しいけど、聞き出したいとかはないよ」

　人間同士の行為を交尾と呼ぶ場面はそう多くないが、生殖器を繋ぎ合わせさえすれば成立してしまうのだから、少なくとも事実には即している。

「でも、白・夜・は・死・ぬ・前・に・あ・た・し・と・出・会・っ・ち・ゃ・っ・た・じゃん？♡♡」
　
　あたしはもちろん白夜とそういうこともしたい。ただ、今は身体の一部ではなくてなるべく多くの肌表面で彼を感じたい。愛を伝えたい。さして高くもない体温でも分けてあげたいと思った。