Temptation Invitation

片喰 一歌

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第1幕『半人半蛇(蛇人間)』【表】

第8話『道化の素顔』

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「おにーさん? それ、どういう意味?」

 詮索はするのもされるのも好きじゃないけど、反射的に聞き返していた。

「…………なんでもねェよ。強いて言うなら、『当たり前のことを当たり前に出来る普通のカップルってのは、案外少ないんじゃねェのか』と思った……ってとこかねェ」 

 彼は自嘲気味に鼻を鳴らした。カノジョさんとあまり順調に行っていないのかもしれない。

「んん? 『当たり前にあるもの、出来てることを当たり前だって思えるのがいちばん幸せ』みたいな話?」
 
「かもなァ」

 どこか――というか、ここにはいない大切な人――を見つめる瞳は切なさ以上に愛しさで満杯で、初めてこの人の素顔に触れられた気がした。
 
 おにーさん、いい人だもんね。こんな人に愛されたら幸せだと思う。カノジョさんも素敵な人なんだろうなあ。
 
「…………だが、そっちも心配には及ばねェさ。左半身が蛇、右半身が人間なんてことにもなってねェし…………。そもそも、だ。どこのどいつが『蛇の要素と人間の要素がきっかり半分ずつ』なんつったよ?」

 ニヤッと悪い顔で笑った彼は、少しは元気を出してくれただろうか。

「確かに!」

「いや、素直すぎねェか!? もっと疑っていいんだぜ? オレが言い出したんだしなァ、『半分蛇で半分人間』ってのは」

 即答したら、なぜかおにーさんがわたわたし出した。……この人、意外とポーカーフェイスじゃない?

「言ってたっけ? 言ってたかも……? おにーさんの話し方、めっちゃ説得力あるから信じちゃった。蛇っぽいとこと人間っぽいとこが大体半分くらいずつミックスされてるわけじゃないってこと? 誇大広告? 人を騙すのは感心しないな~」

 眉毛を上げ、大袈裟に肩を竦めて『やれやれ』のポーズを取った。

「いや、姉ちゃんを騙くらかそうなんざ思ってねェさ」

 ふざけているのだとすぐに気付いてくれた彼は、おかしそうに笑いを噛み殺している。笑顔の絶えない人だ。

「別名『半人半蛇はんじんはんだ』ってくらいだ。大まかには半々って思ってりゃいいはずだ……が、白夜に関して言やァそうでもねェのか……?」

 ――というより、感情が顔に出やすい人なんだろう。今度は眉間に皺を寄せてぶつぶつ言っている。

「やっぱり嘘吐いてるわけじゃなかったんだね」

「あァ、少なくともオレの知ってることについては。だが、同じ団っつったってそこまで関わりがあるわけじゃねェし、間違ったこと教えちまってる可能性はあるって、一応頭に入れといてくれると助かるよ」
 
「そっか。……同じ部署だから仲良いとか、現実じゃレアケースだもんね。でも、とりあえず教えてよ! おにーさんから見た白夜さんは、蛇感と人間感どっちが強め?」

 ヨレ知らずの囲み目をじっと見つめ、現時点で最大の関心事について尋ねた。あとでアイライナーのメーカーと品番も訊いちゃおうかな。
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