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第1幕『半人半蛇(蛇人間)』【表】
第4話『道化の彼と蛇〜(Heavy)な彼女』
しおりを挟む時間は飛んで、翌日の退勤後。
「おーい。そこの姉ちゃん!」
最寄りの駅(結構栄えている)で電車を降りたあたしは、いつものように自宅のある方面の出口から外に出たところで、見知らぬオトコノヒトに声を掛けられた。
「ん? あたし?」
この時間、ひとりで歩くオンナに声掛けてくるのだ。結構な確率でナンパだろう。
好みのタイプだったら久々のワンナイトもありかもなんて考えつつ、キメ顔を作って振り向いたら、快活な声の印象からは想像のつかない感じの人がいた。
「そうそう。アンタだ」
イケメンといえばイケメンだが、バチバチにメイクをしている(特にアイメイクは気合いが入っている。……いや、似合ってはいるが)し、顔に目立つ傷があって、柄の悪さを加速させている。
彫りの深さはいい線行っているが、あたしの好みはもっとリッチで余裕のある男性だ。
この人も精神的な余裕はありそうだけど、せいぜい小金持ちだろう。身に着けているブランドと雰囲気を基に、脳内でそろばんを弾いた。
「あたしに何か?」
「今、こいつがアンタの鞄から落ちたように見えたんだが……」
目の前のオンナが失礼すぎることを考えているなんて知る由もないその人は、見覚えのあるお守りを見せてきた。
あたしが蛇オタ道を歩むきっかけになった蛇神様のいる神社で購入した、とても大切なお守りだ。――ただ、あたしのと違って紐が切れている。
「…………ん?」
念のため、通勤鞄を確認すると、そこに付いているはずのお守りは忽然と消えていた。……ということは――。
「あー!! そう! それ、あたしの大切なお守りだったみたい!!」
彼の手の中のお守りが最初に手に入れた推しグッズだと判明した途端に大きな声を出したあたしを見て、柄悪めおにーさんは一瞬だけ目を丸くして、それから小さな子を見守る父兄にも似た笑顔になった。
「やっぱりか。ほらよ」
てっきり投げて寄越すのかと思ったけど、人は見かけによらないらしい。彼は大股で歩み寄ってきて、あたしの手にぽんとそれを乗せてくれた。
「拾ってくれてありがとうね! 優しいおにーさん!!」
ヒトの脳とは実に単純かつ勝手なもので、彼が善良な人物だと判断するや否や、先ほどまでの評価とは打って変わって魅力的な容貌に映るようになってしまった。
――それでも『抱かれたい』には一歩及ばず『抱かれてもいい』止まりだが。
「いいってことよ。ところで、姉ちゃんは蛇が好きなのかい?」
そのままどこかに行くかと思った彼は、続けて質問を投げてきた。雑談からワンナイトに繋げるつもりだとしたら、相当手慣れている。
「あ、わかっちゃう~?♡ もうめっちゃ好き♡♡ 好きすぎてどうしようって感じ!」
だが、彼の目論見がなんだったとしても、その話題に食い付かないわけにはいかなかった。
なぜなら、蛇ちゃん愛をさらけ出すことのできる機会は限られているから。
常日頃から界隈内で活発に交流を行っているオタクであればこんなこともなかったはずだが、孤高なあたしのマシンガンオタトークに耳を傾けてくれる相手は滅多に現れない。そういう意味でもあたしは欲求不満だった。
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