三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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HONEYDEW RAIN

HONEYDEW RAIN<XXIX>

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(だけど、考えてみたら、周りからしたらどっちも同じだよね。断らないし自分の気持ちを言わないから、支配欲の強い人ばっかり引き寄せて…………。あとになってこんなに後悔することになるなんて、考えてもなかったなぁ……)

 彼と出会うまでの記憶がぐわっと襲いかかってくる。できることなら思い出したくない、完全に忘れてしまいたい記憶の数々だ。
 
 そのなかには、初体験の痛みのみならず、ろくに慣らしもせずに挿入に及ばれたときの痛みもあった。

 それらは身体の記憶として深く刻まれていたけれど、思い出すたびにひび割れていく心のほうがよほど深手を負っているといえるのかもしれない。

(…………だけど、『好き』も『嫌い』もわからなくなってたわたしがこれだけ『大好き』と思えるひとに出会えたことってすごいことだよね。奇跡っていってもいいくらいかも。……というか、ここまで大好きにさせてくれた君がすごいんだね。君の意地悪は愛のある意地悪だから、ちっとも嫌だと思わないんだろうなぁ)

 改めて感謝を感じるとともに、際限なく膨れ上がる愛おしさにまかせて、少しだけいつもの自分の枠をはみ出してみることにした。
 
「君とそういうことする心構え。…………と、その……♡♡ 下のほう……も、準備……できてる……よ?♡♡」

 このあと彼が入浴するのだからお湯を汚すわけにはいかないのに、股のあいだになにかがじんわり滲み出した感覚をおぼえた。

「慣らさなくても挿入はいっちゃうってこと?♡♡ 想像……だけじゃないか。プラスおしゃべりとかでぬるぬるになっちゃった?♡♡」
 
「……うん……♡♡」

「あはは♡ そっか♡♡ 今日のきみ、すっごく積極的だね♡ 俺のことおうちに入れて、一緒にお風呂入ろうって提案までしてきて♡♡ ……あぁ、心配しないで?♡♡ 恥ずかしがってなんにもできないきみも、俺のこと欲しいって訴えるきみも、甲乙つけがたいかわいさだから♡♡ いまはそのラブコールに応えてあげるわけにはいかないけど……」

「そうだよね。……わがまま言ってごめんなさい」

 体育座りになって脚をもじもじさせたけれど、お腹の奥がよりいっそう疼いただけだった。

「…………きみはさ、女の子の大事なところに男のを挿れることがセックスだと思ってる?」

「そうだけど、違った?」

 快感を得られた経験がないどころか圧迫感と不快感しかおぼえたことがないくせに、意識の深層に潜んだメスの部分が彼のモノに貫かれることを渇望している。

 心のなかを透視されているようだ。恥ずかしくなって、開き直ったみたいなかわいくない返事をしてしまった。

「いや、違うとまでは言わないけど。俺としてはそれだけだと思ってほしくなくて」

 返ってきた意外な言葉に耳を澄ませた。
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