三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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HONEYDEW RAIN

HONEYDEW RAIN<XXVIII>

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「…………準備できてるの、道具それだけじゃないよ?♡」

 彼の真似をして唇を湿らせた。

 いつもはリップが取れてしまうからなるべくしないけれど、彼が自分の癖に気付いているとしたら、いまから話すことの重大さ……というより、わたしがいかに勇気を振り絞ったかが伝わるのではないかという小狡い狙いがあった。

(自分で舐め取っちゃうのも食べたり飲んだりして取れちゃうのも好きじゃないけど、キスしてるうちに取れていっちゃうのは好き……♡♡)

 しかし、唇の一部に自分の舌を滑らせた途端、彼に施される少々刺激的な大人のキスが恋しくなってしまった。

(…………キスしたいな……♡ 顎が疲れちゃうくらいたくさんしてほしい……♡ 君のこともっともっと好きになっちゃうキス……。もっとすごいことしたら、どうなっちゃうのかなぁ♡ 好きになりすぎて、強制的に素直になれちゃったりしないかな?)

「へぇ?♡♡ 他にはどんな準備ができてるの?♡♡ 俺に教えてよ♡♡」

 もし対面で話をしていたら、彼は眉を大袈裟に上げてハリウッドスター顔負けの表情を作っていたことだろう。清廉潔白で公明正大な聖人――ではなく、少し後ろ暗い部分もあるようなとびっきりの色男の役を演じている最中のような。

(思った以上に食いつきがいい。……わざわざ恥ずかしくなっちゃうようなこと言いに行かなくてもいいのはわかってるけど、たまにはわたしも君のこと照れさせたいし! でも、言い方はもうちょっとマイルドにしたほうがいいかなぁ……?)

 彼と他の人の目があるところではできないようなスキンシップをするようになって気付いたことがあるけれど、色っぽい展開になった途端に彼は意地悪になる。

 いまだって、わたしの口から恥ずかしい言葉、あるいは羞恥心からくるリアクションを引き出そうとしているのが証拠だ。

(…………っていっても、元々が優しすぎるくらい優しいひとだからなぁ。あの程度は意地悪でもなんでもないか。それに、『わたしだけ知ってる顔がある』って特別な感じがして嬉しいし……♡♡)

 幼い頃から両親が期待してくれているようないい子を演じ続けていた関係で、わたしは昔から自分の気持ちを他人に伝えることに苦手意識があった。

(思ってることとか考えてること、感じてることがなかったわけじゃないけど、わたしの気持ちはみんなに好かれるようないい子の答えとは違うってわかってたから隠し続けて、だんだん自分がいまなにをどう感じてるかとかだけじゃなくて、どういうものが好みだったのかまでわからなくなってきちゃったんだよね)

 好きなものがわからないということは、その逆で嫌いなものがわからないということだ。
 
 嫌いなものはわかっていてもはっきりとした意思表示ができないという人もいるけれど、わたしの場合はそうではなかった。
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