三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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HONEYDEW RAIN

HONEYDEW RAIN<XXI>

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「…………び……っくりしたなぁ♡♡ 『わたしのはじめてもらって♡』なんて言い出すから、なにかと思ったよ♡♡ きっと『一緒にお風呂入って♡』って意味で言ってくれたんだよね?♡ 喜んで……というか、もうご一緒しちゃってるし♡♡ のぼせない程度にゆっくり楽しもうね……♡♡」

 彼はおどけて胸に手を当てたあと、ふっと笑顔を消した。

「……俺がきみのはじめての男になれたらよかったのに……」

 予想外の言葉を受け、今度はこちらが目を見開く番だった。

「俺のはじめてもきみにあげたかったなぁ。でも、男のはじめてにはなんにも価値ないか。緊張してもたもたしてる男とか全然頼りにならないもんね。……うん、きっとこれでよかったんだ……」

 自分に言い聞かせるように伏し目がちに呟く彼は憂いを帯びていて、とても美しい。雨の降りしきる高原の背景がよく似合いそうだ。

「価値がないなんてこと…………」
 
「よし。シャワー完了! これだけあったまってれば血圧が急に上がるってこともないだろうし」

 小さすぎる声は水の音には敵わなかったのだろう。彼はなぜかシャワーを止め、お風呂の蓋を開けた。その瞬間、湯気がぶわぁっと立って、一気に視界が悪くなった。
 
「俺は大丈夫だから、先にお風呂浸かっちゃって♡ シャワー浴びたらそのまま身体洗っちゃうよ。きみがあったまってるあいだに♡♡ で、俺が全身洗い終わったらポジションチェンジ♡ いい案だと思うんだけど、どうかな?♡♡」

 彼は軽く背中を叩いて促してくる。寒くて鳥肌が立っていることにはどうか気付かれていませんように。

「そうしてもらえたら、わたしはすごく助かるけど…………。君は本当に平気?」

「平気平気! 君に比べたらだいぶ寒さ耐性あるし、気にしないで♪」

 と言って、彼は力こぶを作った。筋肉がある分あたたかいと言いたいのだろうか。

「本当にありがとう。……でも、途中で寒いなぁって思ったら、遠慮しないですぐ入ってきてね?」
 
「もちろんそういうときは遠慮なく言うよ。……ね、俺はきみがちゃんと肩まで浸かったとこ見てからじゃないと安心して自分のことできないから、先入って?」

 彼はその台詞のとおり、わたしの行動を観察している。

(いつもだけど、言ってることとか目線が過保護なんだよね……! 彼氏は彼氏でも年上彼氏みたいな。だけど、年が上なだけで頼りにならないし包容力皆無な人も知ってるしなぁ。彼のこの過保護さは彼氏ってよりお兄ちゃんとかお父さんに近いような…………。言ってること自体はお母さんっぽいけど、こんなこと言ったらさすがにご機嫌斜めになっちゃうだろうなぁ)
 
 タオルを巻いているとはいえ、胸のところで一ヶ所留めてあるだけのそれは防御力もほとんどないし、少し派手な動きをしただけでずり落ちたり取れたりしてしまいそうで心許ない。
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