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HONEYDEW RAIN
HONEYDEW RAIN<XVII>
しおりを挟む「恥ずかしいからなんともなくはないけど、君に触ってもらうのは好きだから本当に気にしないで?」
彼の目に妖しい光が灯ったことに気付かなかったわけではないけれど、頭のなかで組み立てたままの答えを口にした。だって、どう思われたとしても誤解を解くほうが先決だと思ったから。
「へぇ?♡♡ 『俺に触られるのは好き』?♡♡」
すると、彼はゆっくりとわたしの発言を復唱した。
「…………あ、えっと……。『君に触ってもらうのが好き』っていうのは別に変な意味じゃなくて、服着てても着てなくても同じだからね……! 安心するの、『近くに君がいるんだなぁ』って思えて」
巷で流行りだというツンデレ属性がごとき言い回しをしてしまい、その場から消え去ってしまいたくなった。
あざとくて嫌とかではなく、自分の気持ちを素直に表現するのが苦手なわたしは、流行する前から最大限頑張ってもそういう感じにしかなれなかった。
だから、自分を見ているようで苦々しい気持ちになるので苦手だ(し、できれば自分もツンデレを脱却したい)というだけだ。
「そっかそっか♡♡ きみは俺に触られるのが好きなのか♡ 『服着てたらいいけど直接はダメ!』じゃなくて本当によかったよ。そしたら、一生セックスできないもんね♡♡ でも、変……というかエッチな意味でも『触ってもらうの好き♡♡』って言ってもらえるように頑張らないと♡」
またしても復唱してきた彼は、わたしのつれない態度にダメ出しするでもなく落ち込むでもなく鷹揚に笑い飛ばしてくれるけれど、表に出さないだけで傷付いているかもしれない。
「…………そんなこと言うんだったら、お風呂入ってるあいだはお触り禁止にしちゃうよ? 君がわたしの気持ち無視して変なところ触ってこようとするんじゃないかって疑ってるわけじゃないけど……」
大切なことは目を見て心に直接届かせるように伝えなくてはと思うけれど、やはり勇気が足りなくて、目の前の鏡を頼った。
(ここがお風呂場じゃなくて電車のなかとかで、お互いちゃんと着込んでたら、『その場に居合わせた他人』にしか見えないかも…………)
浴室の鏡に映っているわたしたちは、すぐに触れ合える距離にいるのにどこかぎこちなくて他人行儀な気がした。
(さっきみたいに抱き寄せられてるところ見てたら違う感想になってたかなぁ。……そんなことないか。まだお互いに遠慮が抜けないもんね)
彼と付き合い始めてから、それまでは風景の一部としてしか認識していなかったカップルに目が向くようになった。
街を歩いているカップルやレストランで食事をするカップルのなかには、もちろんわたしたちと同じように不仲なわけではないけれどよそよそしさを感じる人たちもいたけれど、親密な雰囲気を漂わせている人たちが半数以上だった。
そういう人たちを見ては、『わたしも彼とあんなふうに恋人らしい距離感になりたい』という思いをいっそう強め、そのたびにふたりのあいだに不足しているものについて考えるけれど、毎回『肉体関係の有無』という身も蓋もない結論に達してしまうのだった。
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