三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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HONEYDEW RAIN

HONEYDEW RAIN<XVI>

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「自己責任って…………?♡」

 同じように後ろを向き、さりげなく尋ねてみる。

「後ろ姿でも裸は裸でしょ? 『恥ずかしくなっても知らないよ』ってこと♡♡ 別に俺、『なんとびっくり、昔助けた鶴がイケメンに変身してました!』とかじゃないから安心して♡」
 
 いろんな話が混ざっている気もするけれど、彼が楽しそうなのでよしとしよう。

「……ふふ♡ 言いたいことはわかるけど、『恩返し』どこに行っちゃったの?♡ 鶴に化けたイケメンさん?♡♡」

 着々と服を脱いでいる音が聞こえるなか、それどころではなかったのに、よく返事ができたものだと思う。

「きみ、そんなに俺の作った服が欲しいの?♡ 裁縫苦手なんだけどなぁ……。ひと肌脱いじゃうか♡♡ 鶴だって自分の羽根で機織りしてたんだもんね♡♡ 俺は人間だからそこまで身体張れないけど!」

「え? そこまでしなくて大丈夫だよ? 作れない代わりに既製品をプレゼントしようとかも大丈夫だからね! ……というか、話してないで入ろう? 君ももう全部脱げたよね?」

 ぱさぱさした音が止んで少ししたあと、わたしのほうも準備が整った。濡れた服を脱いだら少しはあたたかくなるのではと期待していたけれど、そんなことはなかった。

「いけないいけない♡♡ きみとおしゃべりしてると、楽しすぎて次なにするところだったかとか全部飛んじゃうね♡」

 腕をさすっても少しもあたたまらなくてぶるぶる震えるわたしとは正反対に、彼は背筋を伸ばして立っている。巻いているタオルの面積だって彼のほうが少ないはずなのに、寒くないのだとしたら羨ましい限りだ。

 首から下をなるべく見ないように顎を上げていると――――。

「ひゃっ♡」

 わたしが寒そうにしていることに気付いたのだろう。突然、抱き寄せられた。

 肩を抱かれて出た声は、どことなく媚びを含んでいた。彼の手にあるまじき冷たさは当然として、紳士的なイメージと結びつかない行動に狼狽えてしまっただけなのだけれど――――。

(びっくりして変な声出ちゃった……! えっちな子だと思われなかったかな……? というか、きっとあっためてくれようとしただけなのに。傷付けてなければいいんだけど…………)

「ごめん! 冷たかったね……というか、服着てないんだったな。脱いだばっかりなのに、なにしてるんだろう。俺……」 

 ちらっと窺った彼は、眉を八の字にしてしきりに謝ってくる。

「平気だよ? 嫌だったわけじゃなくてびっくりしちゃっただけだから……!」

「ほんと? 素肌触られてもなんともない?」

 ――――が。わたしが正直な気持ちを伝えた途端、彼は目の端を妖しく光らせた。
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