三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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HONEYDEW RAIN

HONEYDEW RAIN<Ⅷ>

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「クッション…………? ああ! きみが言ってるのは、身体の凹凸にカチッとフィットするビーズソファのこと? あれめちゃくちゃ評判いいよね!」

 束の間のシンキングタイムから戻ってきた彼は、利き手とは反対の指をぱちんと鳴らした。

「柔らかい素材だし、『カチッと』って感じでもないかもだけどさ」

「そう、そういうの! ……買ったらわたしもくつろがせてほしいなぁ、みたいな気持ちもなくはないんだけどね……!」
 
「へぇ?♡♡ いいこと聞いたな♡ そういうことなら、きみのために買っちゃってもいいかも♡♡ 俺の家にあるものは俺のものであり、きみのものでもあるから♡ ビーズソファひとつ購入するだけできみがうちに入り浸ってくれるなら安すぎる買い物だよ♡♡ サイズはどうしよっか?♡ ここはやっぱりいちばん大きいのいっとく?♡」

 彼は両腕を広げてサイズ感を表現しているらしい。

(常にトップスピードすぎてついていけない! とかいう以前に、わたしにはお金持ちの金銭感覚がわからないよ……! あと、いまでも十分入り浸ってるんじゃないかと思うけど……)

 お金の出どころは彼がお父さんの業務を手伝って受け取った報酬だと確定しているのでいいけれど、そんな高価なものをわたしのために購入させてしまうというのはやはり気が咎めた。
 
「……というか、今年のクリスマスプレゼントそれにする?♡ さすがに色気なさすぎ?♡♡ アクセとか小物とかのがいいのかな♡」

「うーん……。ビーズソファかぁ。欲しい気はしなくもないんだけど、君のおうちに置くものだったらなにがいいかなって考えて出てきたのがそれだったってだけというか……?」

「そっかぁ。…………俺のために案出してくれたってだけでも、買う理由としては十分なんだけどな」

 彼は唇を尖らせて不機嫌を表現しているのだろうけれど、顔がかわいすぎるので微笑ましいとしか感じられなかった。

(これがずぶ濡れになっちゃう前だったら、スマホ取り出してさっさと注文しちゃってたんじゃないかな……。即断即決って彼のためにあるみたいな言葉だよね)
 
 変な話だが、雨に打たれてびしょ濡れになっている現状に感謝した。

「とにかく、わたしのために買うことないからね? 好きなお菓子買っておいたとかとは違うんだし。……主に桁が! 『寂しいなぁ』って感じてるスペースには、君がいいなぁって思うもの置いたらいいと思うよ?」

「……きみはさ、俺が寂しいと思ってるのは具体的にどの部屋だって予想してる?♡♡」

 自分の制服の水気を取り終えたらしい彼は、ぽたぽたと雨水を滴らせる私の髪を拭き始めた。

 拭くといっても、制服にしていたのと同じように髪を挟んで乾いたタオルに水を吸わせる程度のことだ。薄々気付いてはいたが、彼のほうがわたしよりも美意識が高い。
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