三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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HONEYDEW RAIN

HONEYDEW RAIN<Ⅴ>

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「着い……たね……!」

 たった四文字なんだから続けて発音したかったのに、息が上がっていて言葉を発するのもやっとだ。

「無事ではないけど、ここまで来られたらひとまずは安心かな。お疲れ様」

 ほとんど声になっていない発声を聞き取ってくれた彼は、労りの言葉を掛けてくれただけでなく、雨水を吸って吸って吸いまくった髪を撫でてくれた。

「…………うん。君も……お疲れ様…………!」

 彼のアドバイスに従って走る前に軽くストレッチしたので脚などは無事だったが、脆弱な心肺は予期せぬ激しい(?)運動にすっかり驚いてしまったようで、なんだか少しくらくらする。

「大丈夫?」

「ごめん。肩……貸して…………」
 
 立っているのもやっとだったけれど、鍵を出したところで力尽き、彼の胸にどさっと倒れ込んでしまった。

「いいよいいよ♡♡ 肩でもどこでも貸してあげる♡♡ きみの身長だと肩より胸のほうがよさそうだね♡ 支えてあげるから頑張って♡♡ 俺が代わりに開けてもいいけど♡♡」 
 
「このくらいで、息切れ、しちゃう……なんて、恥ずかしい、なぁ……。わたし、体力なさすぎ……かも……」

「体力ないの恥ずかしい?♡ でも、真っ赤なお顔ではぁはぁ言ってるきみもかわいいよ♡♡ 汗……は雨のせいでわかんないのが残念だけどね♡ 色々妄想が捗るなぁ……♡♡」

 わたしの顔を覗き込んだ彼は、唇の横にキスを落とした。目測を誤ったのかと思ったけれど、彼に限ってそのようなことはなさそうだ。
 
 本当は唇にしたかったけれど、呼吸が整っていないわたしのために我慢してくれたのかもしれない。

「もし切実に体力つけたいと思ってるんだったら、俺が鍛えてあげるしね♡♡ 真面目な方法と彼氏の俺にしかできない方法と両方使って……♡」 

 冷たい雨に打たれたはずなのに、いろいろえっちなことを言われた(と思っているけれど、わたしの解釈が間違っている可能性もある)せいで全身がかぁっと熱くなってしまった。
 
「もう……♡♡ 変なこと言ってないで上がって♡ せっかく濡れない場所まできたんだから!」

 横殴りの雨は軒先まで容赦なく降りかかっており、ブレザーはいままで見たなかで最も濃い色になっていた。

「そうだね。お邪魔します。あ、さっきの返事はいつでもいいからね♡♡」 

「君が私を鍛えてくれるって話? また体力つけたいな、つけなきゃならないなって思うことがあったらお願いするかも……♡」

「了解♡ 一応、いまからメニュー考えておこうかな♡♡ きみが楽しく確実に、いまより体力をつけられる方法……♡ ……というか絶対なるし♡♡」

 品定めをするかのごとく、片方の目尻がきらっと光った。
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