三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

文字の大きさ
上 下
130 / 187
HONEYDEW RAIN

HONEYDEW RAIN<Ⅰ>

しおりを挟む

 時間にして二時間ほどあとだろうか。わたしたちは打ち付ける雨の音を聞きながら、急ぎ足で階段を下りていた。
 
 天気の急変は日常的によくあること――とはいえ、五分足らずで空が暗くなり、激しい雨音が聞こえ出したときはびっくりして窓に駆け寄ってしまった。
 
「すっっごい降ってるね……!」

 昇降口に到着し、とりあえず上履きから靴へと履き替えたけれど、雨足は先ほどよりも強まっているように思われた。

「うん、近年稀に見る土砂降りだね。……ごめん。先帰ってもらってれば、こんなことにはならなかったのに……」

 思ったままのことを口にすると、彼は申し訳なさそうに手を合わせた。

「ううん。わたしだけ濡れないで帰れても、全然嬉しくないし!」

「ありがとう。でも、俺としてはやっぱりきみを無事に帰したかったなぁ……」

 空模様のみならず時間帯の関係もあって、あたりはすでに暗くなりかけていたけれど、隣にいる彼の顔ははっきりと視認できる。生まれながらの美貌と相俟って、彼自身が薄く発光しているかのように感じられた。

「雨くらいで大袈裟だなぁ。前に傘忘れて駅までタオル被って走ったことあるけど、別になんともなかったよ?」
 
「えぇ!? はじめて聞いたと思うんだけど、いつの話?」

 彼は目玉が飛び出してしまいそうなほど驚いている。

「一年のときとかかな? 歩いただけじゃわかりにくいけど、走ったら駅までわりと近かったよ。一緒の車両に乗ってた人たちの視線は若干痛かったけどね……!」
 
「あははっ! でも、分からないよ? その人たちも心配してくれてただけかもしれないし――――」

「あ、そっか!」

「…………きみ、そのときはちゃんと胸元とかガードしてた?」

 目付きが突然鋭くなったことを不思議に思っていると、低い声で付け加えられた。

「え? どうだったかなぁ……? たぶんだけど、恥ずかしいのと車内びしゃびしゃにしちゃって申し訳ないのとで、ドアの近くに立って外向いてた気がする……。あと、入学してわりとすぐだったから、肌寒くて下に一枚着てたような……」

 透けた下着を見られていないかどうかを気に掛けてくれたのだろう。
 
(今日は何色の着けてたかな……。彼みたいにインナー着ればいいのはわかってるんだけど、つい着忘れちゃうんだよね。いざとなったら、スクールバッグでガードすればいいかな……というか、それしか方法ないなぁ) 

「そう。じゃあ、ひとまずは安心かな♡ ……知らない男におかず提供するなんて、ボランティアにも程があるからね。俺だってまだ見たことないのに……。あ、ちょっと待ってね?♡」
 
 ぱっと笑顔になった彼は、スマートフォンを操作し始めた。ブルーライトに照らされた横顔も、ため息が出るほど美しい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...