三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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ビフォア・アフタースクール・トーク

ビフォア・アフタースクール・トーク<Ⅵ>

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「うぅ……。おっしゃるとおりです…………」

 雰囲気がどことなく窓華ちゃんに似ている表紙のモデルさんに向かって呟く。

 きついことを言われているわけではないのに、最初から最後まで耳に痛い言葉だった。両の目を瞑り、もらったばかりの助言を反芻する。

「『なに言われても喜ぶタイプ』ってすごい語弊ありそうなんだけど! 俺、そんなドMじゃないし、どっちかというと――――じゃなくて。不満って? きみから俺へのってことだよね?」

 彼は尖らせた口をそのまま窄め、身を屈めた。机にちょこんと両手をついて上目遣い気味に見つめてこられると、あまりのかわいさで頭が真っ白になりそうだ。

「そう…………っていっても、えっと……。こないだ言った以上のことはなくて……。またふたりのときに話すね?」

「了解♡ 惚気のほうも楽しみにしてるから♡ 比率的には惚気9:不満1でお願いね♡♡」

 得心した様子の彼は、あらかじめ用意していたかのようにすらすらと条件を提示してきた。

「ほとんど惚気じゃないの。っていうか、本人に聞かせる惚気なんて存在するの…………?」

 手を止めた窓華ちゃんは、風でページが捲られていってしまっていることにも気付いていないようだ。
 
(慣れるまでは驚くよね。わかるよ……! ……いや、慣れても驚くかも……)

「うん♡ その代わり、不満のほう全部真摯に受け止めるよ。改善のための努力もするし」

「そこは心配してないわ。……ところで、会長。もうすぐ休み時間終わりそうだけど大丈夫? この子がさっき言ってたんだけど、次は移動教室なんじゃないの?」

「あ。そうだった! そろそろ行かないと」

 彼は腕時計を見る仕草をしたけれど、そこに時計はなく、ダイナミックに振り向いて教室前方の壁掛け時計に視線を走らせた。
 
ちゃん。いつもこの子と仲良くしてくれてありがとね♪」

 そして、乱れた髪もそのままに、窓華ちゃんに向かってぺこっと軽く頭を下げた。
 
「どういたしまして。でもね、会長。いっつも言ってるけど、私の名前、窓華まどか。マドンナじゃないから」

「そうだった。ごめん、マドちゃん」

(学園のマドンナだし、ぴったりなあだ名だと思うんだけどなぁ……。というか、ふたりが並んでるほうがよっぽど絵になるんだよね。お互い全然興味ないみたいだけど、やりとりもテンポよくて面白いし。……わたしも『お似合い』って思ってもらえるような人になれたらいいのに)

「じゃあ、また放課後に!」

 物思いに沈む肩を揺らされ、現実に復帰した。

 手を振り合って、また一時間ほどの別れ。翼の生えていそうな背中が見えなくなるのは、当たり前だけれど自宅から彼を見送るときよりもずっと早かった。
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