三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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ビフォア・アフタースクール・トーク

ビフォア・アフタースクール・トーク<Ⅳ>

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「そうなの? 会長、愛されてるわね。でも、わかるかも。毎日のように会ってるっていっても制服だし、私服で会えるときはその分気合いも入るってものよね。……なんだか自分のデート服決めるとき以上に燃えてきたわ……!」

 静かに闘志を燃やす窓華ちゃんは、鞄からわたしたちより少し上の年代がメインターゲットであろう女性誌を出してぱらぱらと捲り出した。

(でも、それだったら服だけじゃなくて…………)

 ついで――というか、こちらのほうが本命だったかもしれない――に『できれば、悩殺必至の下着も一緒に探してほしい』と依頼するために口を開いたとき。

「ふたりとも楽しそうだね♡ 女の子っていつもなんの話してるの?♡ いま、『デート服』って聞こえた気がするから、やっぱりお洒落の話とか?♡♡」

 聞き慣れた声が会話に割り込んできて耳を疑った。顔を上げたら、声の主が手をひらひらさせていた。

(なんでここに!? 短い休み時間に会いに来ることなんて滅多にないのに。……というか、窓華ちゃんに下着も一緒に見てって言ってるところじゃなくてよかった……!)

 反射的に会釈を返すことしかできなかったけれど、勘のいい彼のことだ。他人行儀すぎる振る舞いを見て、おおよその見当はついてしまったかもしれない。
 
「男とそんなに変わんないと思うわよ。同性にしか話せないことや同性のほうが適任な相談って、意外と多くない?」

 窓華ちゃんはどうしてそう平然としていられるのか。

(…………えっ? えっ? 視野が広いから、近付いてきてるの見えてたのかな? ……こっそり教えてほしかった……!! いや、気付けなかったわたしが鈍感なだけだけど! さっきまで惚気まくってたから、なんか恥ずかしくて、彼の顔もまともに見られない……)

「……あぁ、確かにそうかも。そんな怖い顔しなくても、もう詮索しないから。ね?」

 彼は窓華ちゃんに向かって手を合わせたあと、わたしのほうを向いた。

「一時間ぶりだね♡」

「だね。君がこの時間に来るの、珍しいね?」

 綺麗に折られた長い袖から伸びる筋張った腕から徐々に視線を上げていく。

「前の授業終わって集めた全員分のプリント、先生が忘れていっちゃったからさ。職員室まで届けに行ってきた帰りなんだ。通り道だし、どうせだったらきみの顔見てこうと思って寄ってみた♡♡」

 一瞬だけ目を合わせてすぐに外してしまおうと思っていたのに、鍾愛の溶け込んだ瞳にまんまと捕まってしまった。

「そうなんだ。お疲れ様」

「プリントぉ? そんなのもっと暇な奴にやらせればいいのに。会長ってほんとお人好しよね……」

 雑誌に付箋を貼っていた窓華ちゃんが顔を上げた。

「俺はむしろ『きみに会いに行く口実ができた♡』と思ったし、プリント届けに行くほうがついでの用事のつもりでいたよ?♡♡」

 だが、彼がわたしに向かって甘い言葉を投げかけると、呆れたように首を横に振って静かに雑誌に視線を落とした。
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