三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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ビフォア・アフタースクール・トーク

ビフォア・アフタースクール・トーク<Ⅲ>

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「『もっと近付きたい』? 『カラダを求められないと、自分に魅力がないみたいに感じる』?」

 窓華ちゃんは指を折って候補を出してくれている。

「…………どっちもかなぁ」

 それを頼りに迷子になりやすい自分の心を探すけれど、どちらも正しくてどちらも間違っている気がした。

「そう……。気持ちはわかるけど、焦らなくていいと思うけどねぇ。もう言ってあるんでしょ?」

「うん。伝わってるかどうかは微妙だけど…………」

「伝わってないってことはないんじゃない? カレ、なんにも言わなくても大体のことは察しちゃうタイプじゃないかと思うし。ちゃんと考えてると思うわよ。さわやかな顔して意外とむっつりかもしれないし、あんたが言い出す前からタイミング窺ってたりして」

 内緒話をするみたく顔を寄せた窓華ちゃんの肌の肌理に見惚れそうになった。マットな質感に整えられたベースメイクは、彼女の顔の雰囲気とよく調和している。

「わたしが気付いてなかっただけ?」

「ない話ではないでしょ。あんた、そういうことに関してはちょっと鈍いとこない?」

「…………ある……。だとしたら、申し訳なさすぎるね……」 

「気にすることもないと思うけどね。会長からしたら、そこもかわいくて仕方ないんじゃないかと思うから」

 窓華ちゃんが長い脚を組み替えたとき、短いスカートの裾から下着が覗いてしまわないかとあわあわしたけれど、お洒落かつ抜け目のない彼女はもちろん下になにか履いているだろう。

「とにかく、あんたに魅力がないってことは絶対ない!! これだけは自信を持って言えるわ。もしあれなら、デート服一緒に見に行ってあげる。いまもすでにだと思うけど、あんたの魅力最大限に引き出してみせようじゃない」

「ぜひお願いします、師匠……!!」

 どこかで聞いたような表現にくすりとしながら、ありがたすぎるお誘いを受けることにした。

「師匠なんて大袈裟ねぇ。いいのよ。こないだ買い物行ったとき似合いそうなの見つけちゃったから、実際に着てるとこ見たいだけだし」

「ほんと? だとしても、着てく服いっつも迷っちゃうからほんと助かる……! 約束した日から考え始めても、決まるのはいつもぎりぎりになっちゃうんだよね」

 次に学校のない日に会うのはいつになるか目星をつけながら、これまでに重ねてきたデートの記憶を辿った。

(会ってリアクション見るまで安心できないんだよね……。何着ていっても褒めてくれるのは会わなくてもわかってるみたいなものなのに)

 当日着ていく服やメイクについて考えるのは楽しいけれど、なるべくなら彼の好みに寄せたいと思うわたしにとって、彼の優しさは悩みの種でもあった。

(……あと、どんなのが好きか訊いても『きみが着てたらなんでもかわいく見えるよ♡♡』って言われちゃって、いまいち好みがわからないし)
 
 毎回コーディネートの雰囲気をがらりと変えていたおかげでサンプルも揃ってきたところだったが、いままでのリアクションを比較してみても、どれも好感触だった気がする。
 
 本心から褒めてくれている証拠なのだろうが、あまりありがたくないというのが正直なところだ。
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