三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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ビフォア・アフタースクール・トーク

ビフォア・アフタースクール・トーク<Ⅱ>

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「うん。大事にしてくれてるってことだよね」

 うまく笑えているかはわからないながらも、いつもどおりの笑顔で誤魔化した。窓華ちゃんは彼と同じくらい洞察力に優れているから、隠す意味はないかもしれないけれど。

「そうね……。カレ、付き合う前からあんたにだけデレデレだったから、予想どおりといえば予想どおりか。王子様っぽいイメージともぴったり合ってるし。でも、意外といえば意外ね。……というか、私個人としてはものすごく意外」

 窓華ちゃんは紅茶の紙パックを開けてストローを差し込んだ。

 レモンティー派の彼女がその黄色いパック――外で開けるにしては大容量だが、教室内にはストローの刺さった大きな紙パックの載った机が点在していた。流行りの飲み物で飲み方なのだろう――を持っている場面には幾度となく遭遇してきた。
 
 わたしは彼女の飲んでいるシリーズのミルクティーがあまり得意ではなかった。

(好みなんだろうけど、全体的に味が薄い気がして…………。彼に淹れてもらうようになってからは、もっと飲めなくにがてになっちゃったんだよね)

 喉が渇いているわけでもないのに、香り高く甘い特製のミルクティーが恋しくなる。
 
「意外?」

「そうよ。男なんて惚れた女を――――……っと。そうだったそうだった。あんたって恋愛経験は年相応のはずなのに、びっくりしちゃうくらいピュアなのよね。こんなこと言って怖がらせたら、会長の顰蹙買っちゃうわ。……ってわけで、いま私が言いかけたことは忘れて。いい?」

 いまにも紙パックの紅茶を握り潰してしまいそうな窓華ちゃんに視線で訴える。

「? うん。わかった」

「よろしい。…………でも、全然嬉しくなさそうね。お姫様。この年齢の男なんて、『待て』のできない犬みたいな奴ばっかりなのに」

 手元を見た窓華ちゃんは目を大きく見開き、紙パックを机に下ろした。

「彼が王子様なのはいいとして、わたしは全然お姫様じゃないんだけどなぁ……。でも、うん。不安なのはそう」

「どうして不安に思うの?」

「……なんでだろう。なんでかなぁ。別にそういうことが好きとかじゃない……というか、正直苦手なほうだし、いまのままでも幸せなのに」

 パッケージに書かれた薄い色の紅茶は豪快に注がれている。

(ミルクティーはこれより豪快で、ばしゃーって跳ねちゃってるんだよね。注がれてるのがミルクだから、こっち以上に目を引くし)

 パッケージデザインの良し悪しはわからないけれど、比較対象として浮かんだのは、完成したロイヤルミルクティーを彼が丁寧に注いでいる場面だった。
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