上 下
121 / 124
Interlude

Interlude<LXXXI>

しおりを挟む

(もうちょっと一緒にいたかったなぁ…………)

 デートの予定もすんなり決まったけれど、毎度のことながら彼の家からわたしの家までの道のりもあっという間だった。

「今日も送ってくれてありがとう。気を付けて帰ってね」
 
 家が近いのは嬉しいけれど、並んで歩ける時間が短いのは寂しい。歩みの遅くなるわたしを急かさずにずっと隣で歩いてくれた彼にお礼を言って、背を向けようとしたけれど――――。

「待って待って♡ 忘れ物♡♡」

 彼は別れ際の挨拶をする代わりに、少し強めに手を引いてわたしを引き留めた。

「忘れ物? ご、ごめんね? わたし、またなにか君の家に置いてきちゃってた……!?」

 しんみりした気分は彼のひと言で消え去ったけれど、また迷惑を掛けたのではないかという不安に襲われたのと同時にシンデレラおひめさま扱いされてしまったことまで思い出し、声が上擦った。

「違う違う♡ 紛らわしい言い方してごめん♡ 忘れ物じゃなくて、俺が渡したかったのはお土産♡♡」

 鞄の中身を確認しようとする手をそっと掴まれ、かわいらしいギフトバッグの持ち手を握らされた。
 
「お土産?」
 
「まぁ、さっきのお菓子詰めただけなんだけど♡ よかったらおうちで食べてよ♡ このあとも勉強するんだろうし、糖分必要でしょ?♡♡」

(いつのまに……って、テーブルの用意してくれてたときだよね。やることなすことスマートでかっこいいなぁ……) 
 
 彼はギフトバッグの持ち手を握るわたしの手をぎゅっと包んだ。

「え? いいよいいよ! 今日だけでも本当にいろいろしてもらってるし、これ以上もらえないって……!! お菓子も君が用意してくれたんだし、持って帰って食べちゃっていいよ。君だって全部好きなものだったでしょ? わたしたち、好み似てるもんね?♡」

「もちろん好きなんだけどさ、テーブルの上見たでしょ? あれでも一部だったんだよ? あんなにいっぱいひとりじゃ食べきれないもん。余っても大丈夫なようにと思って常温でも日持ちするのに限定させてもらったし、明日は明日で別のスイーツ用意したいから、もらってよ♡♡ ね?♡♡」

「えぇ? だけど…………」

「せっかくここまで持ってきちゃったしさ♡ このまま持って帰るのもなんか悲しいじゃん。だから、ね?♡♡」

 どんなに軽いものだとしても荷物を増やさないように……という気遣いだけでなく、わたしが断れないようにあえて家に着いてから渡すことに決めたのだとしたら、彼はとんでもない策略家だ。

「うぅ……。わかった。ありがたくもらっておくね? でも、勉強のお供とか『お夜食にどうぞ♡』ってことでしょ? いますぐ勉強再開しても、休憩するのは…………」

 増えて嬉しい数字といえば試験の点数くらいで、体重計の数字がいま以上に増えてしまうのは少しも喜ばしいことだとは思えない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...