三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

文字の大きさ
上 下
120 / 187
Interlude

Interlude<LXXX>

しおりを挟む
「ううん。いいんだよ。こんなの俺が勝手にしたことだし、このくらいまたいつでもできるから気にしないで! あぁ、でも…………♡♡」

 下げた頭を一向に上げられないでいると、彼が話し始めた。

「今度は君も一緒に回れたらもっと楽しいだろうなぁ♡♡ 実はこれ買いに行ってるときさ、きみのこと考えながらお店回ってたんだよね♡ 幸せそうに食べてるきみのお顔とか、お礼言ってくれてるところとか♡♡ そんなわけで、張り切って予定の何倍もいろいろ買い込んじゃった♡♡」

 ふたりで一度に味わうにはどう考えても多いスイーツを抱えて帰宅する彼の姿は、子どもたちの笑顔のために大量のプレゼントを抱えてトナカイを駆るサンタクロースと重なる気がした。

「これ、全部おんなじ日に買ったの? ……こんなたくさんのお菓子、ひとりで持って帰ってくるの大変だったでしょ?」
 
「言われてみればちょっとだけ大変だったかも? 途中でひとつチョコかなにかが入った袋を落としちゃったけど、親切な人が拾って持たせてくれてね。だけど、きみが思ってるほど大変じゃなかったから、そんな申し訳なさそうにしないで?♡♡」 
 
 親指と人差し指で顎をくいっと持ち上げられた。優しい彼がふいに見せる強引な仕草に弱いわたしは、目を見て頷くことしかできなかった。
 
「…………でも、きみのこと考えるたびに幸せになるのとおんなじくらい寂しくもなって…………。家着くまでは我慢したんだけど、玄関で荷物下ろしたら一気にきちゃって、めそめそしてたらいつのまにか真っ暗になってて、慌てて電気点けてお菓子棚に仕舞ったっていうね」

「そうだったんだ…………。じゃあ、次は絶対誘ってね?♡♡ わたしもショーケース見てる君のこと見たいし♡ そしたら、予算も荷物も半分こできるから、お外でお茶できるよ?♡♡」

 思い切って切り出すと、寂しそうな笑顔は、魔法にかけられたように一瞬で輝き出した。

「そうだね♡♡ 約束♡ 今度は一緒に買いに行こう♡ ……楽しみな予定増えちゃったなぁ♡♡ いつにするかはまた今度話し合おうね♡」

 わたしから彼をデートに誘ったのは、きっと今回がはじめてだ。目を閉じた彼が近付いてきて、そのまま唇が重なった。

「…………いまじゃだめ……かな?♡」

「いま?♡ ……ああ、そっかそっか♡♡ これからきみのこと、おうちまで送っていくんだもんね♡ 俺もきみとのお外デート待ちきれないし、ちょうどいいや♡♡ 日程決めちゃおっか♡」

 寂しさが完全になくなったわけではないけれど、制服の上に上着を羽織る彼を見ても、心はあたたかいもので満たされたままだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...