三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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Interlude

Interlude<LXXVIII>

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「!」
 
 大きく澄んだ瞳がひときわ大きく見開かれ、その中心にわたしが映っている気がした。

(…………どうしよう。抱き着いちゃったけど、ここからどうするかとか全然考えてなかった……!! しかも、許可も取らないで膝の上乗っちゃうとか……。こういうことしていいのは、かわいいわんちゃんとか猫ちゃんだけだよ…………!)
 
 立ち上がり、図々しくも彼に跨って背中に腕を回す――――ということを、わたしはわずか数秒のあいだに完遂していた。
 
 シミュレーションしたときはどうということなかった(だから実行に移すことができたとも言える)のに、実際にしてみると、男女が向かい合って抱き合っているというのは、なかなかまずい体勢のような気がしなくもない。

 これが最後まで済ませたカップルであれば、話はまた違ってきていたとは思うけれど。

(彼は…………特になんとも思ってなさそうだけど……。わたしが意識しすぎなだけなの!? ちょっと悔しい――――じゃなくて、どうしよう……! 穴があったら入りたいけど穴に入ってる場合でもないような……。そんなことより可及的速やかに、だけど、彼を傷付けないように元の場所に戻りたい……! というか、戻らないと…………!!)

 脳をフル回転させ(ているつもりだったけれど、少しも答えは出てこなかった)つつ、深呼吸してちゃっかり彼の匂いになった空気を肺に取り込んだ。
 
「なになに?♡♡ きみからぎゅーってされること自体珍しいけど、こんなに熱烈なハグはじめてじゃない?♡♡ いままではもっと遠慮されてた気がするから幸せだなぁ♡ これからは毎回こんな感じでぎゅーってしてね♡♡」

 背中に腕が回され、同じくらいの力で抱き締め返された。喋るたびに伝わる振動にわたしが愛しさを募らせていることを、君は知っているだろうか。

「えっ?♡ えっと…………はい♡」 

「……なーんて。ごめんね。心配してくれたんでしょ? 『これ以上引き留められない』とか言ったそばからこれとか、ダメダメ彼氏だなぁ……」 

 引き留めたい気持ちを前面に押し出すかのごとく、抱き締める腕に力がこもる。

 君がきっとまだ私を閉じ込めていたいと願っているのと同じで、私もまだ君の腕のなかにいたい。――――本当は、朝、目覚めるのだって君の腕のなかがいい。

(わー! よりによって本人がいる前でなに想像してるの……!)
 
「ダメダメなんかじゃないよ。わたしにとっては全部完璧な理想のひとなんだから、そんな悲しいこと言わないで! ……もし本当にダメダメなところがあってもいいの。ダメダメなのはわたしもおんなじだし、君のダメダメなところ全部集めても、わたしが君を大好きな気持ちには全然敵いっこないんだから!」

「ほんとに?♡♡」
 
「ほんとだよ!! 特別なお祝い事でもないのに、テーブルいっぱいに彼女の好きなお菓子並べて、しかも、た……、た……、食べ…………させ……て、くれ……る彼氏……なんて、わたしは君以外知らないし!」

 訊かれる前に理由を添えようなんていう柄にもない試みは、早速裏目に出てしまったかもしれない。これでは、わたしが彼と付き合っている理由が捻じ曲がって伝わってしまいそうだ。
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