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Interlude

Interlude<LXXVII>

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「…………俺なりに粘ってみたつもりだけど、時間的にこれ以上は引き留められないな……。明日も会えるし、会えない時間なんてせいぜい半日程度で……。しかも、半分くらいは寝てるうちに過ぎてくのは理解してるわかってるつもりなんだけど…………」 

 彼は時計を一瞥したあと、あえて右の手で右サイドの髪をひと房掬った。指の関節がちょうど頬に当たって少し擽ったかったけれど、それさえも嬉しかった。

「やっぱりどうしても寂しくなっちゃうなぁ……。ひとり暮らししてるせいもあるのかな? ……でも、君だっておうち帰ってもひとりだし、似たような感じか。こんなこと言われても困らせるだけだよね。ごめん。寂しがりすぎるのも鬱陶しいでしょ?」

 彼が口を閉じるのと同時に、頬にあったほのかなぬくもりが去っていく。

「ううん。鬱陶しくなんてないよ。わたしも毎回寂しいもん。君より寂しがってるんじゃないかと思うくらい。家まで送ってもらって玄関の前でバイバイしたあと、君の後ろ姿が見えなくなるまで中入れないし、次の日の朝に会えるまで心配になるの…………」

 形容しがたい寂しさは胸の痛みに変換されて、つい先ほどまで幸福感一強だった勢力図は瞬く間に塗り替えられてしまった。

「『本当にまた会えるのかな』って。……変だよね。君は『バイバイ』じゃなくて『また明日ね』って言ってくれるのに。ちゃんと信じてるはずなのに」

「気付いてくれてたんだね。ありがとう。実はこだわってたから、すごく嬉しい。……きみの言ってること、わかるよ。『事故に遭ってないか』とかそういう心配だけじゃなくて、このうえなく幸せな夢を見てるだけなんじゃないかって……。現実だと思ってることのほうが夢なんじゃないかって、俺、いまでもかなりの頻度で不安になるもん」

 胸の痛みを誤魔化すように言葉を重ねていくと、呼応するかのごとく彼の声も悲痛さを帯びてきた。

「付き合って何ヶ月も経つし、一緒にいる時間も取ってもらってるのに、現実味がないんだよね…………」

 ――――弱り切った彼をひとりにしたくないと思った。

 けれど、現実にそれができない自分がもどかしい。わたしはもうすぐ家に帰らなくてはいけないし、気の利いた言葉ひとつ残せない。

(夢じゃなくて現実だって思ってしんじてもらうには、どうしたらいいんだろう? わたしと付き合ってることの証明……をするのは難しすぎると思うから、『……が、もしあるとしたら…………!)
 
 悔しさか、もどかしさか。あるいはもっと別のシンプルな気持ちか。思考する段階を飛ばして身体が勝手に動き出していた。
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