三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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Interlude

Interlude<LXX>

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「……君に傷を付けたくないのも、でも自分は痕つけてほしいのも、わたしだって同じだもん。だけど、お願いしたって君は絶対につけてくれないでしょ? ……だったら、わたしだって絶対つけないよ」

 その程度で傷が付くと信じていたわけではないし、彼だって本気でしているわけではないとわかっていたけれど、傷を欲している彼が少しだけ怖くなったわたしは力いっぱいに被虐的な手を握り、どうにか動きを止めさせた。

「…………確かに勝手なこと言ってたな。ごめんね。俺のこと大切に想っててくれて嬉しいよ♡」

 いままでにないほど強く手を握られた彼は、その程度の拘束などたいしたことないと言わんばかりにわたしの手を握り返してきた。
 
「んー、そうだねぇ……。言いたいこと……というか、はいっぱいあるんだけどさ?♡」

 固く握り合った手から生産される熱と胸いっぱいに広がるあたたかさとでは、どちらの温度が高いのだろう。

「訂正? もしかして、なにか変なこと言っちゃってたかな……?」

「いやいや♡♡ きみは今日もかわいいことしか言ってないんだけど♡♡ なんていうか……♡ きみは俺のことを実際よりかなり美化しちゃってるみたいだなと思って。とりあえず、その中からひとつだけ言っておこうかな♡♡」

 汚い欲望とは無縁そうな澄んだ瞳を通り過ぎていったものはなんだろう。目を擦っても、その正体を掴むことはできなかった。
 
「うん? なぁに?」

「…………確かに、俺はきみに傷を付けたくないとは言ったし、痛い思いだってなるべくならさせたくないんだけど、キスマークだけはというか……♡♡」

 しかし、あれよあれよという間に彼は雰囲気をがらりと変えた。誘うような目つきに、いつもより少し低い声。いまの彼に『かわいい』と言うのは憚られる。
 
 その変わり身も早さときたら、夕暮れ時の冬の空のようだった。少し暗くなってきたと思ったら、すぐに真っ暗になってしまうせっかちな冬の日没――――。

「別腹って♡ 『むしろつけたい』ってこと……?♡」

 首筋を舐めていたときの『甘い』という謎のコメントも記憶に新しい。やはり彼はわたしをお菓子かなにかだと思っているのだろうか。
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