三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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Interlude

Interlude<LXVIII>

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「爪の伸びが早い原因? 睡眠不足って聞いたことある気がするけど、本当かどうかまでは調べたことないなぁ」

 幸い、彼の問いかけのおかげで気分の切り替えはスムーズにいった。

「あぁ! 俺もその説は半信半疑なんだよね。よく寝たほうが伸びるって言う人もいるし。髪だって身長だってちゃんと睡眠取ったほうが伸びるんだから、そっちのほうが信憑性高そうかなって思うけど、面白さで言ったら睡眠不足のほうが伸びるの早い説を支持したいな」

 答えの出ていることいないこと問わず、彼はこうして議論を戦わせる(正反対の意見でも興味深く聞いてくれるおかげで、感は薄いけれど)ことが好きな性分だ。
 
 はきはきと、そして生き生きと、時には百面相もまじえて展開していく持論はとても聞き応えがある。

「面白さって! 言いたいことはわかるけど」

「面白さも大事だけど、理由はそれだけじゃないよ? ……寝不足ってことは『夜更かしが続いてる』ってことでしょ。つまり、した結果、爪が伸びちゃうとしたら……?♡ ラブラブパワーで細胞が活性化しちゃったみたいでなんかよくないかなぁって♡♡」

 密着感を保ったまま、彼の手が移動していく。指のあいだに指を挿し込まれ、手のひら同士が密着した。

「…………なにそれ♡ 前向きすぎじゃない?♡」

 水かきの部分に感じた刺激に微かに震えながらも、呆れたようなひと言を返す。――――本当はこんなことが言いたいんじゃないのに。

けど、いま以上早く伸びるのはお手入れが面倒になっちゃうよ……! 一応は女子なのに面倒とか言っちゃだめかもだけど」

「別にダメってことはないでしょ♡ ……だけど、そうだね。雑草みたいなスピードで伸びられても困っちゃうよね」
 
 意外なことに、彼は前半部分には反応を示さなかった。

(いまできる最大限のつもりだったんだけど、したいって露骨にアピールしすぎて引かれちゃったかな……)

 遠回しに好意を返そうとして空振りするくらいなら、最初から素直に『好き』と言えばいいだけなのに。視界が一度、大きく揺れた気がした。
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