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Interlude
Interlude<LXVI>
しおりを挟む「…………話変わるけど、君っていつも爪綺麗にしてるよね」
「ん? ……ああ、これ? 長いと鬱陶しいし、落ち着かなくてさ。でも、切っても切ってもすぐ伸びちゃうんだよね。ほんとは削るだけにしておいたほうがいいとか聞くけど、ちょっと俺には難しいかなぁ……」
彼は五本の指を丸め、手首を曲げ伸ばしした。部屋の照明に反射させてチェックしているみたいだ。
前髪の長さにこだわるのと似たようなもので、常にできるだけベストな長さを保っておきたいと考えているのかもしれない。
「鬱陶しい?」
長さを整えるだけにはとどまらず、表面もぴかぴかに磨かれているのだろう。一緒になって覗き込んだ。
「ペンとか包丁握るにもそうだし、キーボード打つときも邪魔じゃない? あと、服着るときにも引っ掛かりそうで…………いや、これはそこまでか。女の子の爪の整え方によっては生地裂いちゃいそうなのあるけど、普通に伸びてる分には大惨事にはなることはなさそうかな?」
「裂いちゃいそう? スクエアとかリップスティックとかかなぁ。他はなんだっけ。えぇっと……スティレット…………だったかな?」
「ん? スキレット?♡」
耳慣れない単語に遭遇したとき、勝手に知っている単語に変換してしまうのはあるあるだと思うけれど、彼はその聞き返し方ひとつとってもかわいらしい。
ぴかぴかの爪よりきらきらの瞳で『解説して♡』と言わんばかりに見つめてくるから。
ところで、前半の『スキ』の部分が強調されているように聞こえたのは、アクセントの関係だろうか。それとも――――。
「それはちょっと厚いフライパンじゃない?♡」
「あ、そっか♡♡ 恥ずかしいな♡」
ほんの少し期待を含ませて訂正したら、彼はぺろっと舌を出した。
「スティレットっていうのは、確か魔女の爪みたいに真ん中が尖ってる爪でね? 似た形にアーモンドっていうのがあるんだけど、それよりも…………って、聞いてる?」
あたたかなまなざしを向けられ、頬が火照った。セラミックヒーターの前にいるときみたい。
「聞いてたよ?♡♡ アーモンドとスティレットは似てるけど、たぶんスティレットのほうが鋭利って話だったんだよね♡ ……きみのこと好きすぎて、見すぎてたかな♡♡ きみの爪はなんて名前の形?♡」
今度こそあからさまに『好き』の部分を強調した彼は、スティレットとスキレットに掛けているつもりだろうか。一度目の強調も気のせいではなかったと考えてよさそうだ。
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