三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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Interlude

Interlude<LXIV>

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「そんなことないよ♡」

 と即答して自問した。――――いまのは『俺ばっかり楽しんじゃって』と『エッチなことするつもりはなかった』のどちらに対する否定だったのだろう。

「そう?♡ ……あ、いいこと思いついた♡♡」

 彼はそれをどう受け取ったのだろう。案外ちゃっかりしたところがあるからどちらともかもしれないし、おおらかだから細かい部分は気にしていないかもしれない。

「きみもどこか触る?♡ 俺の身体のどこでも好きなとこ触っていいよ♡♡」 
 
 彼は満面の笑みで両腕を広げた。もちろん、テーブルとその上にあるものに当たらないように注意しながら。
 
 『どこでも好きな部分に触れていい』という注釈がいわれていなければ、『胸に飛び込んでこい』という意味で受け取ってしまうであろうポーズだ。
 
「…………君の身体の……どこか……?」

 やはりどこか少しずれた感覚を持っている彼に微笑ましさを感じつつ、問題の発言を復唱した。

「ん?♡♡ いま、どこ想像したのかなぁ?♡ 腕はさっき触って知ってると思うし、腹筋とかどうかなぁと思ったんだけど、もっときわどいとこでもいいよ?♡♡」

 顎をくいっと持ち上げるというその動作に、そこに至るまでの洗練された所作に、落ち着きかけた欲情が煽られて再びひと回り大きくなってしまったことに、きっと君は気付いている。
 
「腹筋……?♡♡ 見たいし触りたいけど、腕の筋肉ずっと触らせてもらってたから大丈夫! これ以上はわたしの心臓が危ないから、また今度にしてもらえると…………!!」

「触らなくていいの? 遠慮しないでいいよ?」

 彼の瞳が心の奥底まで見透かすように、ふたつの瞳を覗き込んできた。

「ほんとに遠慮とかじゃなくて、心臓がいままでにないくらいどきどきしちゃってて……! あと、いま、わたしから君に触っちゃったら、襲っちゃうと思うから……!!」

 顔を背けることも視線を逸らすこともかなわないまま、心のなかに浮かんだ言葉を並べていく。
 
 嫌がっているわけではないことさえ伝わればいいと思っていたはずなのに、恥ずかしい本音はすべて丸裸にされてしまった。

「…………へぇ♡♡ きみが俺を襲ってくれるの?♡♡ そんな冗談が言えるくらい、俺に心開いてくれるようになったんだねぇ♡ 嬉しいよ♡」

 親指が唇の曲線をなぞっていった。形を確かめるように。見えないリップを乗せるように。
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