98 / 124
Interlude
Interlude<LVIII>
しおりを挟む「…………でも、きみにとってはいい思い出じゃない……ってことなのかな。あんまり大切にしてもらえなかった? ……これだと、きみの元カレたちのこと悪く言ってるみたいだけど」
大きな瞳を気遣わしげに細めるこのひとの言葉選びが心底好きだと思った。
「気にしないで。たぶんそのとおりだから。君と付き合う前は『大袈裟に考えすぎなだけで、あのくらい普通だったのかな?』って考えてみたりもしたけど、窓華ちゃんとかに聞いてもやっぱり普通じゃなかったみたいで……」
かといって、彼を基準にしてしまうのもそれはそれで危ういのではないかと思うし、この感覚はきっと正しい。わたしは中間を知らないし、これからも知る機会が訪れなければいい。
「あ、でも……『君のせいで気付かなくていいことに気付かされた』みたいなことを言いたいわけじゃなくて…………!!」
「うん。わかってるから大丈夫♡ ……もし本当にそう思ってたとしても、俺は昔のきみが大切にされてなかったことにちゃんと気付けてよかったと思うしね」
彼の瞳は、たくさんの愛を花束のようにひとまとめにして渡してくれる彼の口と同程度に饒舌だ。
熱情が垣間見えることもなくはないけれど、その頻度はさほど高いとはいえないだろう。大体の場合、そこには穏やかに燃える暖炉の炎のような鍾愛が浮かんでいる。いまもそうだ。
(……彼氏……なんだけど、彼氏というか、お兄ちゃんとかお父さんみたい。お兄ちゃんなんていないし、お父さんとは昔からほとんど話したこともないけど。……君はいつも恋愛感情だけじゃない大きな愛をわたしにくれてるね)
頭を撫でる手のぬくもりに安心をおぼえると同時に、恋人というより父兄のような振る舞いに少しだけ腹を立てていたりもして。
(女として見られてないわけじゃないのはわかるけど……。『けど』じゃなくて『だから』なのかなぁ。余計に焦っちゃって……)
「俺といても、完全には消えないか。……そうだよね。こればっかりは仕方ないか。思い上がってたな……」
ストレートティーの香りのため息をついた彼は、蔦の這う壁面のごとく憂いに覆われていた。
「…………。君といるときは完全に記憶から消えてるって言っていいくらいだと思うし、わたしも忘れたつもりでいたけど……。起きたとき、やけにはっきり覚えてる夢ってない? 現実で体験したことよりも。……わたしの場合は『ときよりも』、だけど」
「あるね。比較的、覚えてたくないな~って思う内容のときが多いかも」
彼の眉間にはやや深めの皺が寄っている。あまり夢を見ないと言っていたし、底の底から記憶をひっくり返してくれたのかもしれない。
「わかる……。最近見てた夢も毎回そんな感じでね? 悲しいとかつらいとか、いろんな感情がごちゃまぜで……ぐちゃぐちゃで……。すごく…………そう、憂鬱になってて」
ぐるぐるとループする思考や、細く長い糸が絡まって、いくつも結び目ができてしまっているような状態の複雑きわまりない感情を手で表現した。
「そうだよね……。思い出すだけでもきっといろんなとこがすり減るでしょ? ……なのに、俺に話してくれて本当にありがとう」
すると、彼はふわっと優しくわたしを抱き締めてくれた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる