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Interlude
Interlude<LVII>
しおりを挟む盗賊と姫君の前に立ちはだかっていた壁は、言うまでもないが身分の差だった。
幸運なことに、わたしたちのあいだにそういった障害はない。――――とはいうものの、完全に自由の身というわけでもない。
(相談するために試験勉強の時間削ったんだから、いい加減話さないとだめだよね。君とのおしゃべりは大好きだけど、帰る時間も迫ってきてるし……)
彼にもわかるように顔ごと壁に掛かった時計を向いて、残された時間がわずかであることをアピールした。
「そうだそうだ。本題から逸れちゃってたね。きみとのおしゃべりが楽しすぎて……っていうのも言い訳だし。ごめんね。えぇっと……。きみが不安になっちゃった…………だと少し違ってきちゃうか。きみの不安が大きくなっちゃった原因っていうのが、最近見てたあんまり嬉しくない内容の夢……だったりするのかな?」
すると、その様子を見ていた彼が顔の前で手を合わせた。実に見事な軌道修正だ。
「うん。最近、わたしが見てた夢……の内容なんだけど、元カレたちと付き合ってたときに…………。その……えぇっと……すごく仲のいい恋人たちがするようなこと…………あるでしょ?」
話を進めていくごとに、脳内では無限に疑問符が生産されていった。
歴代彼氏で最も仲良しなのは、いま隣にいる彼だ。……というか、他の人と仲がいいと思えたことは付き合っている最中でさえ一度もなかった気がする。
それなのに、彼以外とは付き合ってすぐに関係を持っていて(断りきれなかったこともあり)、最も仲のいい彼とはまだ一度も身体を重ねていない。
――――ということは、先ほどの表現はまったくもって現実に即していないということになる。
(絶対他にもっとうまい濁し方あったよね……! 語彙力のなさが憎い…………。まだしたことない人だったら恥ずかしくて言えないのもわかるけど、これじゃただかまととぶってる痛い人だよ……)
もっと端的な婉曲表現は他にも数多くあるだろう。――――産婦人科で使われているようなものなんかは、その筆頭だろうか。
とってつけたような笑顔で彼の反応を待っていたけれど、降ってきたのは意外な言葉だった。
「キスの先の…………『俺たちがまだしたことない最高に幸せなスキンシップ』のことで合ってる?」
「そう。……なんかいいね、その言い方」
「きみも思った? 実は俺も自分で言ってていい感じだなって思ってた♡♡」
控えめに自画自賛した彼と裸になって抱き合ったら、凍えてしまいそうな日でも身体の芯からあたたまることができそうだ。暖房なんていらないと思えそうなくらい。
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