三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

文字の大きさ
上 下
96 / 187
Interlude

Interlude<LVI>

しおりを挟む

「…………そっか。きみも俺と同じで不安だったんだね」

 そこに掛けられたのは、そこはかとない安堵の滲む声だった。わたしが百面相しているあいだに、彼も彼でいろいろと考えていたらしい。
 
「不安……。うん、そう。すごく不安だよ。は、モテモテだし? ……女子で君のこと嫌いな子、ひとりもいないんじゃないかなぁ。生徒会長様というか学園の王子様だよ、君は」

 彼を好きな気持ちと同じくらい、不安も口にしただけ巨大化した。厄介なことに、一回ごとの成長幅は『好き』以上に大きい気がする。

 でも、前から感じていたことだ。完全無欠の生徒会長様および学園の王子様――――の隣にいるわたしは、一体、何者なんだろう。
 
 よくてどこにでもいる生徒会書記、悪くて一般通過モブあたりなのではないか。
 
 彼に想いを寄せる人に『この人のなにがよくて付き合っているのか』といちゃもんをつけられたとしても、なにも反論はできない。

 わたしにだってわからないし、彼から根気強く説明されたところで、その何割を素直に受け取ることができるかといったところだろう。
 
 それでも、いつも以上ににっこりと口角を上げ、頬を恋色に染めた彼は、いくつもいくつもわたしの好きなところを挙げてくれるに違いない。

「自分で言い出しておいてあれだけど、恥ずかしすぎるからもう言わないで……! あと、別に王子様ってキャラでもないんじゃないかと思うけどなぁ……」

 いまこの場にいる彼は、妄想の彼とは異なる理由で頬をぽっと染めていた。
 
 彼は求めに応じて軽度のナルシストっぽい振る舞いを選ぶこともあるけれど、実際の彼は自身過剰とも慢心とも程遠い、とても謙虚な人柄だということをわたしは知っている。

「まぁでも、きみがお姫様っぽいから、そっちはいいや♡♡ 盗賊が王子のふりして、なんだかんだで本物の王子になっちゃった話だってあるもんね♡ 形だけ先に作って、現実を追いつかせればいいだけか♡」

 自己評価の低さを補うかのごとく、わたしを過大評価しているのは本当に不思議だし、少し困ったところでもあるけれど。

(……確かに君は、いつだってわたしにを見せてくれるひとだね。王子様っぽいとかどうとかじゃなくて)
 
 彼のいう数十年前に公開されたアニメーション映画(および数年前に公開された実写映画)の象徴たる歌のイントロダクションが脳内に流れ出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...