三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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Interlude

Interlude<XLIV>

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「ぁ……っ♡♡」

 手のひらを軸にして展開するその動きは、同年代の男子や女性に対する思いやりに欠けた男性にありがちな無遠慮なものとは一線を画している。

(変な声出ちゃった……♡ 胸揉まれるのって、こんなに気持ちよかったっけ?♡♡ きっと彼にも聞こえちゃったよね? 我慢してるけど、また出ちゃいそう……♡♡)

 唇を内側に巻き込んで耐えるけれど、いつまで保つかわからない。
 
 息を吐くと同時に、さっき出してしまった以上のいやらしい声が漏れてしまうことを恐れ、息を止めた。

「あれれ?♡ 自分から『触って触って♡♡』してたくせに、覚悟決まってなかったの?♡ こんな近くにあったら揉むに決まってるのに♡♡ これに懲りたら、もう二度とこんな軽率なことしちゃダメだよ?」

 わたしの様子を眺めていた彼は、指先を動かすのをやめ、胸全体を下から持ち上げて大きくゆっくり円を描く動きに移行した。

「いつまで揉んでるの……?♡♡」

 あまり息を吸えなかったためにすぐに限界がきて、おとなしく呼吸を再開した。

「いつまでだろうね?♡ あったかいし、柔らかくて思ってた以上に落ち着くのと、きみの反応がかわいいのとで止まらなくなっちゃったみたい♡♡」

 彼はそう言って、胸元に視線を落とした。

「揺れなくする効果は十分にあると思うけど、ブラってそこまで防御力ないからね。柔らかいの隠せてないもん♡♡ こんながっつり揉まなくても、抱き締めるだけで…………いや、抱き締めるまでもないか? ちょっと当たるだけでわかっちゃうんだから……」
 
「…………覚悟なら済ませてあるよ。いまみたいに揉まれるのだけじゃなくて、下触られるのも……きみとひとつになるのも、全部…………」 

 わたしの処女喪失は文字どおりの『喪失』だったし、『捨てる』という言葉がふさわしい体験だった。
 
 自ら望んで『捨てた』のであれば、まだ納得のいくものだったのかもしれないけれど、心身ともに準備の不十分なまま、そして、言うまでもなく未成熟なまま『』ようなものであり――――短い人生でもワースト上位に入ってくる屈辱に塗れた記憶だ。
 
(…………君が相手だったら、きっと全然違うものになってたよね。怖くなかったと思うし、嫌にもなってなかっただろうし……。多少は痛かったり苦しかったりはしたかもしれないけど、君はできるだけわたしがつらい思いしないようにって、頑張ってくれたんじゃないかなぁ……)

 過去を悔いたところで意味なんてないのに、涙が視界を歪めていく。

(もっとちゃんと抵抗すればよかった。わたしの処女は君にもらってほしかった。……『捨てる』んじゃなくて、) 
  
 そればかりか、腕を持った手にも力がこもる。君はなんにも悪くなんてないのに。
 
「……そうだった。言ってたもんね。『ココロもカラダも準備済ませてある』って……。ごめんね、すぐに応えてあげられなくて。……きみは俺のことをそこまで好きでいてくれて、信頼だってしてくれてるのに」 

 彼はわたしの様子から、なにを考えているのか察したのだと思う。曲げた人差し指の第二関節で、目尻から溢れた涙を拭ってくれた。
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