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Interlude
Interlude<XXXVII>
しおりを挟む――――照れてばかりで滅多に素直になれないわたしにも、思いの外寂しがりな彼にもう少しだけしてあげられることがありそうだ。
「じゃあ、これでもう寂しくなくなった?」
ありったけの勇気を搔き集めて、膝の上にきちんと置かれた手の上に自分の手を重ねてみたら、大きな瞳がこぼれ落ちそうなほどに見開かれたあと、その全域が隠れてしまうほどくしゃくしゃの笑顔を向けられた。
(……雲に覆われた、まんまるのお月様みたい♡♡)
ぽーっとそれを眺めていると、いくらもしないうちに再びふたつの月は姿を現した。白目と黒目の境ははっきりしているのに、わたしを見つめる瞳はふんわりと柔らかい。
「うん♡♡ やっぱりさ、ちょっと手伸ばしたら届くくらいのところにいてほしいよね♡」
幸福に蕩けた表情を浮かべたまま、彼はもう片方の手を乗せてきた。これでわたしの手は彼の手に挟まれる形になる。
「そうかも♡ でも、なんで君も同じことしたの?♡」
「んー?♡♡ 『すぐに触れられて嬉しいね♡』って言いたかったのと、なんとなくしたかったからしてみた♡ まぁ、俺の負けは見えてるけどね♡♡ 俺も大体の人間と同じで、腕は二本だし手もふたつしかないから♡」
彼はなぜか得意そうに顎を上げ、ふふんと鼻をならした。
「なにそれ♡ いちばん上に手乗っけたほうが勝ちなの?♡」
「うん♡ わかってもらえるかなって不安だったけど、やっぱりきみには説明しなくてもちゃんと伝わるんだね♡♡」
「…………手、重ねてるから……♡ そこからわかっちゃったのかも?♡」
暫定的にいちばん上になっていた彼の手の上に仲間外れだったもう片方の手を乗せ、王手をかけた。彼のルールでは、わたしの勝ちだというけれど――――。
「えぇ?♡♡ そんなかわいいこと言う子はこうしちゃうぞ♡♡」
「ひゃっ!?」
彼はいちばん下と上から二番目の手を引き抜いて、二本の腕でわたしを抱き寄せた。そんなことをされるなんて思っていなかったので、抵抗する術もなく彼の胸に倒れ込んでしまった。
「もう♡♡ 紅茶こぼれちゃうかもしれないのに♡」
照れ隠しで出てきた言葉はやっぱりかわいくなくて。
「言われてみればそうだった! 今回は無事だったけど、きみにかかりでもしたら大変だ。今度は気を付けるよ。ごめんね」
けれど、彼はテーブルの上を素早く確認して、乱れた髪を整えてくれた。もちろん気遣う言葉のおまけ付きで。
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