三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

文字の大きさ
上 下
75 / 187
Interlude

Interlude<XXXV>

しおりを挟む

「驚くよ♡♡ すごく嬉しいけど、確かにわたしが難しく考えすぎてるだけで、思い立ったらすぐできちゃうかもしれない……♡ けど、やっぱりそれはんじゃないかなぁ?♡」

 少しでも気を紛らわせるために、テーブルの上のお皿をひとつひとつチェックしていく。

 フロランタンにマカロン、レーズンサンド。それから、チョコレートの乗ったお皿が数枚。たぶん、わかりやすいようにお店ごとに分けて出してくれてあるのだと思う。

けど……♡♡」 
 
「…………ん?」 

 短く発された声に顔を上げると、彼が大きな瞳をぱちくりさせていた。つややかで煌びやかなチョコレートにも負けない輝きに怯みそうになる。

(変なこと言ったとかじゃなくて、彼が冗談のつもりで言ったことを真に受けちゃっただけ? 『忘れて』って言っても、彼にはもう聞かれちゃってるから意味ないし!)

 少し首を傾げると、彼も鏡映しのように同じだけ首を傾けた。

「……ああ♡ そういうことね?♡♡ うんうん♡ そっかそっかぁ……♡♡」

 そのままの状態で見つめ合うこと数秒。先に口を開いたのは彼のほうだった。
 
「そういうことって、どういうこと?」

 彼はしきりに頷いているけれど、こちらのほうはというと、現在の状況がまったく掴めていなかった。

「いや、考えてみれば、っていっぱいあるよな~と思って♡」

 口元を隠して笑う姿は、わたしよりも断然お淑やかだ。

「うん。紛らわしいよね?」 

「そう。んだ。『雨』と『飴』とか、『雲』と『蜘蛛』くらいかけ離れたものだったらいいけど、口頭だと一瞬で判断できない言葉も多いよね♡」

 しなやかな指が正方形のチョコレートをひと粒持ち上げ、そのまま口元に運んでいった。綺麗な形の唇を眺めていると、彼がそのお皿の上を指して親指を立てた。

「おいしい?♡ じゃあ、わたしもひとつもらおっと」

 彼の口に放り込まれたチョコレートの隣にあったものをひょいと摘んで、見守られながら頬張る。こそばゆくて考え事どころではなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...