三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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Interlude

Interlude<XXXIII>

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「あの子、きみの友達っていうか…………あれだ。お姉さんって感じだよね。身内感ある!」

 彼はうっとりした視線に気付くことなく、窓華ちゃんの話を続けている。

「身内? お姉ちゃんがいたらあんな感じかなぁっていうのはわたしも思ってるけど、窓華ちゃんと知り合ったのは高校入ってからだよ?」

「意外だな。……でも、そっか。付き合いの長さと関係の深さは、必ずしも比例するわけじゃないもんね」

 彼の視線は、わたしをまっすぐ貫いていた。迷いを一切感じさせず、他のものが映り込むことさえ許さない視線には、『貫く』という表現がぴったりだ。

「うん。そうだね……!」

 精神的な繋がりについて言っているのだとは思うけれど、いまより深い関係になることを願っているせいか、どうしてもそういうことを連想してしまう。

 しかし、『次のステップに進みたい』と打ち明ける前に、日常の愛情表現を増やすほうが先ではないかという気もするし、なかなか面と向かって訊けないというのが現状だった。
 
「同学年のなかでもしっかりしてるし、生徒会に欲しかった人材かも。バイト掛け持ちしてて忙しそうじゃなかったら、声掛けてたんだけどな」
 
 しれっと話題を戻した彼は、向かい合っている彼女わたしがそわそわしていることになんて、少しも気付いていないみたい。

(一緒にいるのに、さっきから窓華ちゃんのことばっかり……。彼は『きみ以外にほかのひとなんてちっとも興味ない』って言うし、話聞いてる感じも恋愛的に好きってわけじゃないのはわかるけど、なんかもやもやしちゃう……)

 ここまで実力を買われている彼女に嫉妬をおぼえてしまったのだろう。心の隅にできたちりっとした焦げ跡が、独特の臭気を放っている気がした。
 
「俺と付き合う前は、きみの親友兼お姉さん――――にプラスして恋人みたいな立ち位置だったわけか。すごいな。おいしすぎる……。正直めっちゃくちゃ羨ましい……!!」

 けれど、その焦げ跡は、続く言葉で完全に拭い取られた。

「…………えっと、ごめんね?」
 
 彼は窓華ちゃんを褒めながら、彼女の立ち位置を羨んでいたという。にやける口元を押さえた。
 
「いや、ごめんはこっちの台詞じゃないかな? やきもち……も、ないわけじゃないけど、俺のほうこそ、ふたりの時間だいぶ取っちゃって申し訳ないなぁと思って…………」

 そんなことを言ったら、わたしだって彼が友達と過ごしていた、あるいは過ごすはずだった時間を奪っていることになるし、お互い様なのに。
 
「ううん、そんなことないよ! 窓華ちゃんだって彼氏さんと過ごしたいと思うし、バイトも忙しそうだし。それに……」  

「それに?」

 先ほどまでしょんぼりと下がっていたふたつの眉は、平行に戻りつつあった。

「窓華ちゃんのことは当たり前に大好きだけど、わたしだって君と……人生ではじめて『大好き』って言えて、一緒にいて安心できる彼氏といたいもん♡♡」 

「……もう♡♡ ほんとになんなの、俺の彼女♡♡ かわいすぎてどうにかなっちゃいそうなんだけど♡ 取って、俺の隣にいてよね!」
 
 勇気を出して気持ちを伝えたら、即座にお返しがきてしまった。しかも、軽く見積もっても数億倍にはなっていそうだ。

 彼はそこまで深く考えていないかもしれないけれど、かといって、いい加減な口約束をするひとではない。
 
 つまり、さっきの言葉はものすごい拡大解釈をすれば、人生ではじめてされたになるわけで――――。
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