72 / 187
Interlude
Interlude<XXXII>
しおりを挟む「だよね?」
やはり彼はいちばんの理解者だ。嬉しくなって身を乗り出したけれど――――。
「でも、きみに奢りたくなる気持ちはめちゃくちゃわかるなぁ♡♡ なんでもおいしそうに食べてくれるし、お礼言うときの顔もかわいくてさ……♡♡」
次の瞬間には手のひらを返して、窓華ちゃんに同調し出した。蕩けるような瞳に捉えられて身動きが取れなくなるのを恐れ、椅子に深く座り直す。
「…………それ、わたしの前で言うことだった……?♡」
「んー……。他の奴にも自慢と牽制兼ねて惚気ることはあるけど、やっぱりこういうのは本人に言わないと意味ないんじゃない?♡♡ 植物の実験の有名なやつ。知ってるでしょ?♡」
「褒めてかわいがると、健康に育つんだっけ?」
「そう♡ それ♡♡ きみはいまもうすでに文句のつけどころなんてないくらいにかわいいけど、『かわいい♡』って言い続けたらもっともっとかわいくなるんじゃないかな?♡ ……まぁ、本当はそういう効果を期待してとかじゃなくて、つい口を衝いて出ちゃうだけなんだけどね♡♡」
なにもかもがスマートな彼の褒め言葉が惜しみなく降り注ぐ。如雨露から水を、あるいは天から恵みの雨を受ける花壇の花になってしまったような気分だ。
(だけど、彼の言葉がお世辞じゃないって信じられるのは、きっと――――)
「でも、きみがめちゃくちゃかわいくなった姿で俺の前に現れてくれたのは、窓華ちゃんのおかげなんじゃないかと思ってて。さっき話したお花の実験と同じでね」
思考を読まれてしまったかのような発言に胸がきゅっと疼いた。
「確かにそうかも……? 窓華ちゃんも君と同じくらいたくさん『かわいい』って言ってくれるし、褒め言葉のバリエーションも豊富だし」
言葉ではない部分で通じ合っている感覚に口元が緩んで。それと比例するように、言葉数もいつもより少しだけ多くなる。
「なるほど。俺も負けてられないな……!」
「え? いまの対抗心燃やすとこだった? 窓華ちゃんのことは大好きだけど、君を大好きなのとは種類が違うというか……。大好きなふたりに争ってほしくないというか…………!」
「冗談は置いといて♡ わかってるわかってる。窓華ちゃんは貴重な味方だし、結託すべき相手だと思ってるよ。敵対するんじゃなくてね」
おろおろしているわたしを見つめる彼は、穏やかな微笑を浮かべていた。
季節がもう少し早ければ、夕焼けに照らされてよりいっそう美しかっただろうに、日に日に日は短くなって、窓の外の世界はすでに夜に足を踏み入れている。
「よかったぁ」
――――ここにいられるのは、長くてもあと1時間程度。きっと30分もすれば、彼はわたしを家まで送り届けるために上着を羽織り出すだろう。
(もっと一緒にいたいなぁ……♡♡ 夜がいちばん深くなって、次に空が明るくなるまで、君といられたら……)
自分でも、彼とどこまで進展することを望んでいるのかがはっきりわかっているわけではない。
ただただもっと長い時間をともに過ごしたくて、離れがたくて。彼のカップの中身と似たような色をした髪を人差し指に巻き付けて、恋する瞳で見つめ続けた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説


ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる