64 / 124
Interlude
Interlude<XXIV>
しおりを挟む「君がわたしのはじめての彼氏だったらよかったのにね……」
いま思えば、この反実仮想は最も端的に、そして最も効果的に夢の内容を伝えていたのではないかと思う。
「…………きみの夢に出てきて、きみをまた苦しめてるのは、元カレなんだね? そのうちの何人がつらい思い出になってるかはわからないけど……」
彼はきわめて断定的な問いかけを投げて寄越す。まだ夏の残り香のする季節だというのに、底冷えするような声だった。
「……そう。最近、なんでか元カレたちの夢を見るの……。ごめんなさい。いま、わたしのそばにいて、いままで出会ってきた誰よりもわたしのことを想ってくれてるのは君だって、ちゃんとわかってるつもりなのに」
夢は潜在意識の反映だなんて言うけれど、わたしはその説には懐疑的な立場を取っている。
飛び降りる夢や追手から逃げる夢を見る人は多いと聞くけれど、現実で同じ体験をしたい物好きは少数だろう。
『余裕のない日々を送る当事者の疲弊した精神が、そういった象徴に置き換わっている』――――というのであれば頷ける部分もあるけれど、どちらかといえば、就寝中に行われるという記憶の整理に関係している気がする。
「元カレたち、か…………」
彼の声がくぐもって聞こえたけれど、いまは考えるのに忙しくて、頷くだけで手一杯だ。
――――まず、前提として、記憶というのは圧縮ファイルのようなものだとわたしは考えている。必要に応じて解凍するか、もしくはなにかのきっかけがない限りは、そのまま眠っているものだ。
当然、劣化や破損も避けては通れないけれど、それが救いになることも往々にしてある。
彼は『一日の記憶を定着させる』という観点から、睡眠が大事だと説いていたけれど、その日の分の記憶を書き加えることにプラスして、これまでの人生で起こった出来事の記録も、ランダムで――あるいはなんらかの規則性に基づいているのかもしれないけれど――整理されているのではないだろうか。
その過程で、必要な記憶と不要な記憶を選り分けるフェーズが発生するはずだ。
そして、そういった記憶の選別を行うために、睡眠中には本人の意識とはまったくの無関係に記憶の解凍がなされることがあるのではないか。
それこそが『望まずして見てしまう悪夢の正体』なのではないか――――というのがわたしの持論だった。
とはいえ、彼も同じ考えを持っているとは限らない。祈るような気持ちで次に続く言葉を待った。
「夢の内容なんてコントロールできないよ。忘れてたかったことを思い出すことなら、普通に起きてるときだってあるでしょ。記憶の蓋も夢の内容と同じ。ヒトは色んな出来事を結び付けて記憶する生き物だからね、なにがトリガーになるかはわからない」
しかし、すべては杞憂だったようで、彼は幼子を寝かしつけるときのように、とんとんと背中を優しく叩いてくれた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
森でオッサンに拾って貰いました。
来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。
ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる