上 下
59 / 124
Interlude

Interlude<XIX>

しおりを挟む

「……本当にごめん……。アタシのせいで、お嬢がそんな目に遭ってたなんて…………」

 明くる日、彼とのあいだに起きたひと悶着について話すと、カズミンはそれきり、口を閉ざしてしまった。
 
 なにを言っても不適切だったり、責任逃れのための言い訳になってしまったりすることを危惧したのだろう。ノリが軽いから誤解を受けやすいけれど、この子はそういう子だ。前から。

「違うの。カズミン。わたしが自分でちゃんと考えて答え出さなかったのが悪かったんだよ」

 彼女の心を軽くしたかったわけではなく、自分を省みて自然に出てきた言葉だった。
 
 本来ならば、『好きなタイプからかけ離れている』というだけでも断る理由たり得たのだ。それを馬鹿正直に本人に伝えるかはともかくとして。

「でも、別れるって決めたのはアンタじゃん。付き合うって決めたときは完全に自分の判断ってわけじゃなかっただろうけど、あんときのお嬢といまのお嬢は全然違う。自分の気持ちに自分で気付けて、ちゃんとそれをクソヤローに伝えた。別人じゃん! すげーよ!!」
 
「ありがと……。でも、カズミンのおかげだと思うよ。いろいろアドバイスしてくれたから」

「…………お嬢はめっちゃカッケェけど、これからが怖いな……。……あ、そうだ。完全におせっかいなんだけどさ――」
  
 彼女はわたしが報復を受けないように――――と屈強なボディガードを数名貸してくれた。

「カズミンはわたしのことお嬢お嬢っていうけど、自分のほうがお嬢様なんじゃないの……? 一般家庭の子は、ボディガードなんてつけられないよね? ……っていうか、雇えないし!」

「生まれじゃねーって。キャラだよ、キャラ。アタシ、間違ってもお嬢様じゃねーだろ。ギャルだもん。ギャルがいい。アンタのがずっと『お嬢』……てか、ほんとは『姫』でもいいんじゃねーかと思ってんだけどさ」

「姫ぇ!? ないない! まだギャルのがなれそうな気がするよ?」

 素っ頓狂な声を上げてしまったわたしには、どちらの呼称もふさわしくない。

「ギャルメイクも似合いそーだけどさー、アタシみてーなカッコしたところで姫っぽさは隠せないと思うんだよねー?」

 カズミンはずずいっと近付いたかと思えば、後ろに下がるといったことを繰り返していた。ギャルメイクを施したわたしの姿を脳内にイメージしているのだろうか。

「待って待って。いつのまにか『姫』になってない!?」

「不服かよ? いーじゃん、姫。アンタにぴったりだろ!」

「えぇ……。そうかなぁ? 『姫』と『お嬢』だったら、呼ばれ慣れてる分、まだ『お嬢』のほうが……って、改めて見るとすごい二択だね…………」

「…………なんだ、お嬢のがいいのか。残念だけど、本人の希望ならしょうがねーか。ぴったりだと思ったんだけどなー、姫!」

 自分の考えを主張しながらも、あっさり引いた彼女に感服する。
 
 これがきっと尊重されて育ってきたということなんだろう。経済状況ではない家庭環境の差に愕然としたけれど、つられて笑顔になってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...