三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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Interlude

Interlude<XIX>

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「……本当にごめん……。アタシのせいで、お嬢がそんな目に遭ってたなんて…………」

 明くる日、彼とのあいだに起きたひと悶着について話すと、カズミンはそれきり、口を閉ざしてしまった。
 
 なにを言っても不適切だったり、責任逃れのための言い訳になってしまったりすることを危惧したのだろう。ノリが軽いから誤解を受けやすいけれど、この子はそういう子だ。前から。

「違うの。カズミン。わたしが自分でちゃんと考えて答え出さなかったのが悪かったんだよ」

 彼女の心を軽くしたかったわけではなく、自分を省みて自然に出てきた言葉だった。
 
 本来ならば、『好きなタイプからかけ離れている』というだけでも断る理由たり得たのだ。それを馬鹿正直に本人に伝えるかはともかくとして。

「でも、別れるって決めたのはアンタじゃん。付き合うって決めたときは完全に自分の判断ってわけじゃなかっただろうけど、あんときのお嬢といまのお嬢は全然違う。自分の気持ちに自分で気付けて、ちゃんとそれをクソヤローに伝えた。別人じゃん! すげーよ!!」
 
「ありがと……。でも、カズミンのおかげだと思うよ。いろいろアドバイスしてくれたから」

「…………お嬢はめっちゃカッケェけど、これからが怖いな……。……あ、そうだ。完全におせっかいなんだけどさ――」
  
 彼女はわたしが報復を受けないように――――と屈強なボディガードを数名貸してくれた。

「カズミンはわたしのことお嬢お嬢っていうけど、自分のほうがお嬢様なんじゃないの……? 一般家庭の子は、ボディガードなんてつけられないよね? ……っていうか、雇えないし!」

「生まれじゃねーって。キャラだよ、キャラ。アタシ、間違ってもお嬢様じゃねーだろ。ギャルだもん。ギャルがいい。アンタのがずっと『お嬢』……てか、ほんとは『姫』でもいいんじゃねーかと思ってんだけどさ」

「姫ぇ!? ないない! まだギャルのがなれそうな気がするよ?」

 素っ頓狂な声を上げてしまったわたしには、どちらの呼称もふさわしくない。

「ギャルメイクも似合いそーだけどさー、アタシみてーなカッコしたところで姫っぽさは隠せないと思うんだよねー?」

 カズミンはずずいっと近付いたかと思えば、後ろに下がるといったことを繰り返していた。ギャルメイクを施したわたしの姿を脳内にイメージしているのだろうか。

「待って待って。いつのまにか『姫』になってない!?」

「不服かよ? いーじゃん、姫。アンタにぴったりだろ!」

「えぇ……。そうかなぁ? 『姫』と『お嬢』だったら、呼ばれ慣れてる分、まだ『お嬢』のほうが……って、改めて見るとすごい二択だね…………」

「…………なんだ、お嬢のがいいのか。残念だけど、本人の希望ならしょうがねーか。ぴったりだと思ったんだけどなー、姫!」

 自分の考えを主張しながらも、あっさり引いた彼女に感服する。
 
 これがきっと尊重されて育ってきたということなんだろう。経済状況ではない家庭環境の差に愕然としたけれど、つられて笑顔になってしまった。
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