三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

文字の大きさ
上 下
55 / 187
Interlude

Interlude<XV>

しおりを挟む

「なんでOKしなよって言ったの?」

 と隣の女友達に尋ねたのは、一般的な感覚を少しでも掴みたかったから。

 告白の返事を受け取った他校の男子(※すでに彼氏だというのに、我ながらこの他人事感は何事かと思う。)は、連絡先を交換したあと、大勢の仲間を引き連れて帰っていった。

 一緒に下校していたわけだし、友達だったのだろうとは思うが、彼らのあいだには明確な上下関係が存在しているように思えてならなかった。

 大なり小なり男性社会にはそういう傾向があるということを加味しても、それ以上の力関係が見て取れたというべきか。
 
 わたしに告白してきた彼は、ピラミッドの頂点に君臨しているのだろう。一部――おそらくカースト下位に属しているであろう人たち――は、ずっと彼の顔色を窺っていた。
 
「イケメンだったし、断る理由ないっしょ!」

 即答した彼女は、もちろん窓華ちゃんではない。一実ちゃん――通称・カズミン――だ。

 囲み目のメイクが特徴的(※わたしの交友範囲では囲み目をしているのは彼女ぐらいしかいなかったが、こういうメイクが流行していたので、本当は特徴的とは言えないかもしれない。)な彼女とは、一年のときに委員会で一緒になってから、なんだかんだ親しくしている。
 
 わたしたちははっきり言って正反対だと思うけれど、そこがかえって噛み合うのだと思う。

「……名前も知らないのに、失礼じゃなかったかな? 好きとか嫌いとかもわからないし…………」

 彼らの後ろ姿を見送りながら、ぼそっと呟いた。
 
 揃いも揃って腰パンをしているせいで、ズボンの裾は遠目に見ても汚れていた。観察を続けるうちに、道端の枯れた草を巻き込んでいた人がいることまで発見してしまった。

(まだ彼のことはほとんど知らないけど、衛生観念の摺り合わせは諦めたほうがいいかも……)

「告白してんだから、OKもらいたかったに決まってんじゃーん! 向こうだってアンタの顔ファンみたいなもんだし、中身とかはこれから知ってきゃいいっしょ! ……てか、『好きんなってから付き合う』とか初動遅すぎな?」

 ゴテゴテにデコった携帯電話を握ったカズミンが、ずいっと顔を近付けてきた。某歌姫のような形の大きな瞳に見つめられ、落ち着かない気持ちになる。

 元の顔そざいがいいから、そんなにコテコテにメイクせずともいいのではないかといつも思っているけれど、本人が好きでしていることにわざわざ水を差すこともないだろう。

「…………え? それは……ええっと、『好きじゃない人と付き合う』……ってこと? カズミンはいつもそういう感じ……?」

「好きんなってっから付き合うコトがないとは言わないけどさー? 付き合ってみないとわかんねーコトって、いっぱいあんだよ?」

 『目から鱗』とはこういうときに使うのだろう。腕組みをした彼女は、たいそう大人びて見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...