三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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Interlude

Interlude<XI>

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「え?」

 思いもよらない返答だったのか、彼はそう言ったきりフリーズしてしまった。

「というか、『なんでもいい』っていちばん困るよね……!? ごめんなさい! さっきのなし……! プレゼントも別になくていいの……」

 先ほどの話を聞いたうえでこんなことを言えば、どのくらいがっかりさせてしまうかなんてわかりきったことだけれど、わたしには咄嗟に気の利いた返しができる機転も、手頃なプレゼントの案もなかった。
 
「プレゼントなんてなくても、クリスマスに一緒にいてくれるだけで……! しかも、一緒に過ごしてくれるのは大好きな君だし……。それだけで贅沢だもん。一生分の幸せかもってくらい。だから、そのうえプレゼントなんてもらえないよ…………!!」

「…………遠慮してる? 俺、そんなに頼りない?」

 ぼそりと呟くような問いかけ。いまの彼は、知らない街で待ちぼうけを食らって、途方に暮れている人みたいだ。

「そういうわけじゃなくて……」

 わたしには、彼のような洞察力も、適切な言葉を瞬時に発見する能力もない。否定するだけで精一杯だ。

「……まぁ、きみの言いたいことも部分的にはわかるんだけどね。好きなひとが自分のために選んでくれたプレゼントは、なんだって特別だし大事だよ」

 彼はへにゃっと笑ったかと思えば、広げた手の上に拳の底を打ち付けた。なにかを閃いたときのジェスチャーだ。

「…………あ、もらったものといえば! 聞いてよ。きみにもらったサプリあるでしょ?」

「今朝渡したグミの?」

 効果のほどを聞かせてくれるのかと一旦は思ったけれど、食べてすぐに効果を実感できるものではなかったはずだ。

 仮になにがしかの効果を感じているのだとしたら、どう考えてもプラシーボ効果でしかないと思うけれど――――。

「うん。朝のHRで『授業に関係ないから仕舞え!』って言われちゃってさ。俺の野望、打ち砕かれるの早すぎじゃない?」

 浅はかな考えは、彼本人の口から否定された。

 『目に入る場所(机の上)に置く』と宣言してはいたけれど、野望とはまた大きく出たものだ。

 前々から思っていたが、彼には少々(で済ませていいものかどうか定かではないけれど)、常軌を逸したところがある。

「……え? ほんとに机の上に置いてたの? あの重くて大きい袋を?」

 真っ先に『邪魔ではなかったかどうか』が心配になってしまったわたしも、彼とは別のベクトルに普通から逸脱した人間なのかもしれない。

「そうだよ? 言ったでしょ? 『目に入る場所に置いておきたい』って」

「言ってたけど、まさか実行するとは……。場所だって取るし…………」 

「…………まぁ、授業には直接関係ないし、『先生の言うとおりだな』と思ってすぐ仕舞ったけど、残念だったなぁ……」

 彼のため息を聞き、タッパーが外に出ているにもかかわらず、なぜかでっぷりしているランチトートに視線を走らせた。もしかして、あのなかには――――。
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