三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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Interlude

Interlude<Ⅳ>

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「あ、そうだ。わたしも渡すものあるんだった。ノート持ってきてくれたお礼と起こしてくれたお礼なんだけど…………」

 空いている側の手で、鞄の上に空いたスペースに入れてきたものを出した。ノートを仕舞ったときに思い出せばよかったのに、二度手間になってしまった。

「そんなのいいのに♡」

「そういうわけにはいかないよ。君にはいつもお世話になってるもん。たまにはわたしだってお礼したいの! ……改めて、ノートとモーニングコールありがとう」
 
 プリントされた字が彼によく見える角度で渡したとき、お菓子と同じようにかわいいギフトバッグに入れて持ってくればよかったかもしれないと思った。
 
「なになに? これは…………グミ?」

 パッケージにずらっと並んだ文字を追って左右に何度も動く目は、いつも以上に大きい。

「うん。そう、グミ。昨日か一昨日、『最近、目の疲れが取れない』って言ってたから、わたしがいつも飲んで……じゃないね、食べてるサプリ試したらどうかなって思って」

「きみのおすすめなんだ♡♡ ありがとう♡ …………新品だけど、もらっちゃって大丈夫?」

 彼はあげたばかりのグミを抱き締めたあと、声を落として訊いてきた。

「うん! ……というか、余ってるから、もらってほしいくらいで……」
 
「余ってる?」 

「うん。いつもは薬局で買ってるんだけど……。あそこって具合悪そうな人多いし、風邪引きたくないなぁと思って、今回は通販で頼んだんだけど、間違えてふたつ買っちゃったの。でも、ひと袋にたくさん入ってるからどうしようかなぁって思ってたところで……」

「…………本当は俺のために買ってきてくれたけど、気を遣わせないようにそう言ってる……とかじゃなくて?」
 
「ほんとに数量間違えちゃっただけだよ! だから、押し付ける感じになっちゃったけど、よかったら使ってみてね。君にはあんまり効かないかもしれないけど、歯応えあって眠気覚ましには効くし、きっと無駄にはならないんじゃないかなぁ。あと、おいしいよ!」

「そっか♡♡ おいしいの、地味に大事だよね。続けるモチベーションになるし。学校着いたら、早速試してみよっかな」

 ――――とは言うものの、彼は一向にグミ(※販売されているなかで最も大きいサイズ。そこそこ重い。)を鞄に入れようとはしなかった。

「……仕舞わなくていいの?」  
 
「どうして?」

 疑問を口にしても、不思議そうに聞き返される始末。

「邪魔じゃないかなぁと思ったんだけど……」

「ちょっとだけね。でも、きみが俺のために持ってきてくれたものだから、目に入るところに置いておきたくて♡」

「! やっぱりラッピングすればよかったぁ…………。そしたら、わたしからプレゼントされた感じももうちょっと出たのに……!」

 少し考えれば予測できたことだ。後悔の言葉を口にすると――――。

「いいのいいの♡ 俺がわかってれば♡♡ 机の上置いといて、訊かれたら『優しい彼女にもらった♡』って言うし!」
 
 彼は耳に顔を寄せ、甘く囁いた。
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