上 下
42 / 124
Interlude

Interlude<Ⅱ>

しおりを挟む

「もしもし……!」

 寝起きの声は掠れていて、いつも以上にかわいくない。
 
「おはよう♡ 起きてた?」

 それなのに、はにかんだ声からは、いま彼が柔らかな笑顔を浮かべていることどんなかおをしているかまで伝わってきた。

 電話の声は本人の声に似せた合成音声だそのものではないと聞くけれど、それでもざわざわして落ち着かない気持ちを鎮めてくれる。

「この電話で起きたよ」

「えっ、そうなんだ!? 起こしちゃってごめん!」

 電話の向こうで、バサバサッという音がしたあと、ぱんっという音が鳴った。

 おおかた、彼はハンズフリーで通話しながらノートか教科書を開いていたんだろう。けれど、わたしの返事を聞き、手を合わせて謝罪したら、広げていた冊子が支えを失って落ちてしまった――――。こんなところではないかと思う。

「ううん!」

 落としたものを拾うよりも、たとえ相手わたしに見えなくても仕草つきで謝ることを優先することに彼らしさを感じて微笑ましくなる頃には、就寝時に搔いた冷や汗もすっかり引いていた。

「わたしこそ嫌な言い方しちゃった気がする。ごめんね。……すごく悲しい夢見てたから、起こしてもらえてすごく助かったよ」

「…………そっか。じゃあ、電話してよかった!」

 一瞬だけ暗くなった声は、すぐに明るさを取り戻した。 

「君が朝に電話してくるなんて珍しいね。わたしに何か用事?」
 
「あ、そうそう! 昨日、俺んちに化学のノート忘れてったでしょ?」

「……え? そうなんだ? 全然気付かなかった。昨日、疲れてて家では宿題以外できなかったから……」

 テーブルの端に寄せてあったスクールバッグを引っ張ってきて、中身を確認する。

「…………あ、ほんとだ。ないね、化学のノートだけ……」 

 できていないのは宿題を除く勉強のみならず、明日(今日)の支度もだった。電話を切ったら、急いで中身を詰め直さなければ。

「俺もさっき気付いて。昨日のうちに気付いてたら渡しに行けたのにって思ったんだけど、困ってないならよかったよ。あとで渡すね!」

「うん、ありがとう。またあとでね」 

 通話が終了したときには、ひどい悪夢の内容も大部分が気にならなくなっていた。

(ノート持ってきてくれるお礼と起こしてくれたお礼でなにかしたいけど、彼が喜んでくれそうなものってなんだろう?)

 鞄の中身を詰め替えたあと、鏡の前で考える。

(…………そういえば……。うん、いいものがあった!)

 届いたばかりの段ボールからお目当ての品をひとつ取って鞄に入れたら、彼と会うのがよりいっそう楽しみになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

処理中です...