三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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彼と彼女の放課後

彼と彼女の放課後<XXX>

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「今日のもかわいく撮れてるね♡♡ いつものきみよりちょっとオトナな雰囲気なのもいいな♡」

 両頬を包まれたことを認識した直後、唇によく知った柔らかな感触をおぼえた。

「加工なしでこんなにかわいいとか、きみってほんとに綺麗なお顔してるんだねぇ♡♡」
  
 ぽーっと幸福に浸っているわたしの横で、彼は撮りたての写真を拡大したり縮小したりしていた。
 
 何回経験しても、欠点のない美貌の持ち主に褒められるのは不思議な感覚だ。並べられるのは、わたしへの称賛ばかり。彼には隣に写っているはずの自分が目に入っていないみたい。
 
 『毛穴開いてないかな』とか『鼻毛出てないかな』とか気になることばかりだけれど、見つめてもらえている喜びがすべてを押し流していく。

「君こそ♡ なんか、無加工でも周りにキラキラのエフェクトとか舞ってる気がするよ?」

「キラキラのエフェクト? 自分ではよくわかんないけど、ありがと♡ 」

 長い指は画面の上で、ふたりを囲う大きなハートを描いている。

「話は変わるけど……。ふたりだけで撮った写真、そろそろアルバム1冊分くらいにはなると思う?」

「ええっと…………」
 
 この習慣はいつから続いているだろう。付き合い始めて、わりあい日が浅いうちからの試みのはずだから――――。

「アルバムの大きさにもよると思うけど、古き良き規格のアルバムだったら、ぎりきり1冊分くらいは撮ってきたんじゃないかなぁ? 水族館行ったときとかパシャパシャ撮ってた気がするし、あの日だけでも結構枚数増えたんじゃないかと思うけど……」

 学校のある平日5日。どちらかが欠席したこともない――――と日数を数え始めて、ふと立ち止まった。

 写真を撮っているのは、校内だけでも平日だけでもなかった。

「ふたりで……じゃなくて、わたしのことばっかり撮ってた気がするけどね」

「俺にとっての最高の被写体はきみだし、水槽のなかのお魚とお話ししてるみたいでかわいくて♡♡」

 いまのように放課後も一緒に過ごして、1日1枚のノルマの他に思い出を残すこともあったし、休日のデートともなると、多弁な彼の声の次によく聞くのがシャッター音ではないかと思うくらいだった。

「水族館デートも楽しかったねぇ♡♡ もう結構経つよね? また行きたいな♡ クラゲで有名なとこも行ってみたいって前に言ってたよね?♡ だから、次はそこにしない?♡♡」

 オンラインストレージを立ち上げた彼は、すごいスピードでそれを遡っている。

 写真を撮ることだけに気を取られず、そのときにした会話までしっかり記憶してくれる彼が、楽しい計画を立てて、当然のようにわたしをそこにいさせてくれる彼が心底好きだと思った。
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