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彼と彼女の放課後

彼と彼女の放課後<XXIX>

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「やっぱり?♡ 俺もそう思う♡♡」

 画面から目が離せずにいると、彼が視界に割り込んできて、唇も目線も意識も一挙に奪われた。

「アツアツなカップルがよく『旅行の思い出~』って感じで24時間で勝手に消える投稿に載せてるよね♡♡ 真似しようとは思わないけど、見せつけたい気持ちはめちゃくちゃわかる♡♡」
 
「そこまでわかってて、ここで撮るの……?♡」

 若者のくせに若者文化に疎いわたしには彼の言っていることの半分も理解できなかったけれど、流行りものに強い彼が言うのならそうなんだろう。

「撮ってすぐに写真を見たきみが俺とそういうことするのを想像してくれるかもしれないし、別に全部の写真使うわけじゃないから、1枚くらいそういうのがあってもいいんじゃないかと思ったんだけど……♡ ダメかな?♡」

「…………君は撮りたい?」

「うん♡♡ 俺のコレクションに加えるの♡ きみが嫌なら誰にも見せないから、ここで撮らせてほしいなぁ……」

 ――――反則だ。おやつが欲しくてぶりっこする子犬のような目で見られて断れるほど、わたしは非情にはなれない。
 
「じゃあ……今日は特別ね?♡」

「ありがとう♡♡」
 
 にぱっと笑顔になった彼は、下ろしていた腕を元の位置まで上げた。

「ほらほら、もっと近付いて?♡ お互いのほう向いたら唇ぶつかっちゃうキスできちゃうくらいの距離で撮ろうよ♡♡ 俺たちめちゃくちゃ仲良しのカップルなんだから♡♡」

「!」

 彼にとっては写真を撮る前の掛け声代わりでしかなかったのかもしれないけれど、その言葉がわたしのよからぬスイッチを入れてしまったようだ。

 左手で彼のシャツを掴み、髪の毛が少しくしゃっとなる程度に寄りかかって――――。最後にわずかに唇を開き、キスの直前の形にした。

「完璧♡♡」

 画面に映ったわたしを見た彼は、撮影ボタンをタップしたシャッターを切った。 




「ノルマ達成♡ 嫌がってたわりに、ノリノリじゃなかった?♡♡」

 出来栄えを確認するのが怖くて、彼のシャツを握り直した。

「……どうせなら、なりきっちゃったほうが恥ずかしくないかなぁと思ったんだけど……。やってみたら楽しくなっちゃって。単純でしょ?」

「きみは素直だもんね♡♡ 美人さんだし、演技にも向いてる…………ってことは、女優さん向きなんじゃないかと思うけど、ライバル増やしたくないし、全世界に見つかってほしくもないなぁ……。一生、俺だけのお姫様でいてね♡♡」

 ひと回り以上大きな手に握り込んだ手を包まれて、『それでいい』ではなく『ぜひそうしてほしい』と願ってしまった。

 ――――わたしの世界には、彼さえいれば他にはなにもいらない。
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