三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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彼と彼女の放課後

彼と彼女の放課後<XXII>

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「結果的にはなにもなかったからよかったけど、絶対になにもないなんて保証はどこにもないんだよ? そうなったら責任は絶対取るけど、そういうことでもないんだって…………」

 なんと返せばいいか考えているあいだに、彼は言葉を繋げていく。
 
 普段から話の長い彼は、説教になるととりわけ話が長くなる。正座なんてしていたら、しばらくは立てなくなってしまうだろうことは想像に難くない。

(『』ってことは、やっぱり……)

 強引に割り込みでもしない限り、わたしの喋る番は当分こないだろう。
 
「君が心配してくれてるトラブルってきっと、『避妊してたはずなのに妊娠しちゃった』みたいなことでしょ? 君のせいになんてしないし、君との子だったらデキてもいいと思ってるから、こんなこと言ってるんだよ?」

 まだ一度も抱き合っていないのに、これではただのセックスではなく子作りがしたいとねだっているのと同じかもしれない。

 言葉にしたら恥ずかしくなってきてしまったけれど、最後まで言い切った――――と思いきや。大丈夫じゃなさそうなのは、わたしの告白を聞いていた彼のほうだった。
 
 顔を真っ赤にして、口をぱくぱくさせている彼は間違いなくかわいい。

「~~~っ♡♡ あのさぁ、きみ……!」

 かわいいけれど、それだけではない。きっ、と上がった目尻と眉が怒りを伝えている。
 
「そう思ってくれるのは嬉しいけど、それを本人に言ってきちゃダメだって…………!!」

 いつもならどちらからともなくキスしているほど顔を近付けているというのに、彼はその唇をわたしの唇と触れ合わせようとはしてくれない。

「どうして?」

「…………わからない? 本当に?」

 寂しくなって泣きそうになりながら頷いたとき、ようやく彼は矛を収めてくれた。前々から感じていたけれど、もしかしたらこのひとは泣き顔に弱いのかもしれない。
 
「そんなの、いますぐきみを…………じゃなくて♡♡ 抱きたくなっちゃうからに決まってる……♡♡」

 彼はそう言って、愛情いっぱいのハグをしてくれた。最初はふわっと包むように、あとから徐々に力を込める彼のハグは、積み重なった不安さえも一瞬で消し去ってくれそうだ。

(『は』? ……って、なんだろう? それに、抱き締められる前、一瞬だけ見たことない顔してた。おなかの奥がきゅんってしちゃった……♡♡)
 
 不自然に入り込んだ『は』が気になったけれど、手を出してこないのが魅力不足でその気になれないという理由ではなく、彼がわたしの安全を第一に考えてくれているからだとわかっただけでも収穫ではないか。
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