三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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彼と彼女の放課後

彼と彼女の放課後<XIX>

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「言われてみれば、そうかも……。いますぐ子ども欲しいとかじゃなければ、本当は別にそんなことしなくたっていいんだもんね?」

「うんうん♡♡ 好きな子とは、こうやってくっついてるだけで幸せだし♡」

 しかし、そう言って鼻と鼻を触れ合わせてきた彼は、わたしのよく知る優しい笑顔を浮かべていた。
 
「…………そうだね。でも、わたしはわかる気がするなぁ。たぶんだけど、好きなひとと一緒に気持ちよくなりたい……だけじゃないんだと思う。『好きなひととは誰よりも近付きたい』って気持ちがあって、そのために…………」 

 一応は肯定してみたものの、本心から出た言葉でなかったためか、対立する側の意見を補強するようなことをもにょもにょ付け加えてしまう。
 
「…………だめだね、わたし。……わかってるの。わかってるけど割り切れなくて、いつも君のこと困らせてばっかりで……」

 純粋な思慕だけではなかった。

 要不要で考えれば、いまのわたしたちには不要な行為とわかっていながら、出所のわからない焦燥に駆られていた。

 誘惑される機会の多い君の心を繋ぎ止めておく碇となるなにかが欲しかった。
 
 渇望していた。君とどこまでも深く交わることを。

「ダメじゃないって。俺もわかるよ、その気持ち♡♡ 本当はこんなの…………って正直思うけど、『こういうのがあるおかげでリスク減らしてきみのことかわいがれるんだ。開発してくれた人や改良してきてくれた人に感謝しよう』って自分に言い聞かせてるだけ」

 行き場をなくして箱の上に置きっぱなしの手が、それより大きい彼の手に覆われる。
 
「でも、逆に考えたらさ、これはいましか使えないものなわけじゃん?♡♡ 俺は無難なの選んじゃったけど、いい匂いのとか光るタイプとかいろんなのあって面白いよ?♡ 今度、使ってみたいやつ一緒に探そう♡」
 
「……うん、そうだね……。ありがとう」

 真っ暗な部屋で男性器だけが発光しているというのは、確かに面白い絵面だ。
 
「今日は…………っていうか、試験終わるまではだめだとしても、日程を決めておくことはできるよね?♡」

 焦燥も渇望も忘れて笑みをこぼすと、彼はわたしから箱を取り上げて指を絡ませた。
 
「そしたら、それを励みにもっと頑張れるかもだし♡♡」
 
「…………君は? 君はいつがいい?」 

 彼ももう一段階深い関係になるのを心待ちにしてくれているとわかると、わたしの声も弾み出した。  
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