三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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彼と彼女の放課後

彼と彼女の放課後<XVIII>

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「…………じゃあ、『着けないでしたいな』って思ったことあった?」

 腰に回った手を握って問いかけたのは、その次に知りたかったこと。過去を探ったところで、改変なんてできはしないのに。

「んー……。いままではなかったけど、きみとは直接シたいかな♡♡ 本当はね♡」

 彼の手がお腹の前まで到達して、その奥にある命を宿す場所が疼いた。

「えへへ♡ わたしも……♡ あんまり感覚ないって聞くけど、それでも君のこと……もっと近くに感じてみたいな…………♡」

 そんな台詞を真に受けるなんて、よほどの純粋培養か免疫のないくらいだろうと揶揄されてしまうかもしれないけれど、このひとの言葉の裏なんて読もうとするだけ無駄だ。

 だって、彼の口から語られるのはいつだって真実だけな言葉にはひとつの嘘もないのだから。少なくとも、わたしの前では。
 
「それはまだおあずけね?♡♡」

「うん。わかってる…………」 

「寂しそうに見えるのは、気のせい?」

 嘘を吐かない彼は、同時にわたしの隠してしまいたいものを完璧に見抜いてしまう目の持ち主でもあった。

「ううん。気のせいじゃないよ。……まだ当分は君とそのまま繋がれないんだなぁって残念に思っただけだから、気にしないで?」 

「……そっかぁ。そんなふうに思ってもらえてるんだ♡ 嬉しいよ♡♡」

 わたしを捉える、大きく澄んだ双眸が発する魔力に抗えない。
 
 彼に瞳の奥を覗き込まれると、生まれたままの姿をじっくり観察されているような気分になってしまう。
 
 見られたくないはずなのに、不思議と高揚してしまうだけでなく、そのまますべて暴かれることを望んでしまうような――――。

「…………でもさ、ゴム着けてするってそんなに悪いことかな? 悪いっていうか、嘆くようなこと? そこまで感度鈍るとかもないんじゃないかと思うし、それに…………♡♡」 

 言葉を切った彼は、美しいかんばせを近付けて優しく唇を食んだあと、再び口角を引き上げた。
 
「ゴム着けてするセックスって、かえってエロいと思わない?♡ 目的が子ども作ることじゃなくて、好きなひとと気持ちよくなることなんだって意識しちゃうし♡♡ すごい執念じゃない?♡ なんていうか、愛することの業みたいなものを感じるよね♡♡」

 紡がれる言葉と相俟って、人間離れした美貌が冴え渡る。いまの彼は、誰もが震え上がる魔界の王のようでさえあった。
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