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彼と彼女の放課後

彼と彼女の放課後<Ⅻ>

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「ほんと?♡」

 だけど、そのさらに上を行く甘い声で君が尋ねるから、胸の奥のほうまで甘くなってしまって。

「ほんとだよ。うちで使ってるの、白くて無地のお皿ばっかりだから、ここでかわいいお皿選ばせてもらえるだけで楽しいもん。こんなにいっぱい種類ないし」

 甘党のわたしには、彼が与えてくれるくどいくらいの甘さが心地好いのに、中和するようにそっけなく振る舞ってしまう。

(あぁ、もう……! もっとかわいい言い方したいのに…………)

「…………そっか。母さんの好きお皿、きみも気に入ってくれて嬉しいよ。いつもお菓子に合わせてぴったりなの選んでくれてありがとね♡ 俺、いつも決まったのばっかり使っちゃう……というか横着して上のほうのしか取らないからさ、みんな出番あって喜んでると思うよ」
 
 伏せた睫毛の奥に見え隠れする瞳は、切なさと嬉しさがブレンドされたストレートティーのよう。

「お菓子出してくれるお城の絵皿とかさ、存在から忘れてたもん」
 
 そういえば、彼のお母さんはもう――――。

「でも、わたしもあればっかり使っちゃってない?」

 一気にしんみりした気分になったけれど、あえてそこには触れず、お皿の話題を広げることにした。 

「大きさがちょうどいいからでしょ?♡ あと、『ああいう立派なおうち建てて、きみと住みたいな♡』ってあのお皿見るたびに思えるから、いいの♡ 」

「……お城に住みたいの? 君、お城似合うもんね。ますます王子様度上がりそう!」

 お皿の話がお城の話になるのは予想外だったけれど、絵皿のなかのお城の雰囲気は彼とよく調和していた。

「なに言ってるのさ、お姫様♡♡ きみのほうが似合うでしょ♡ まぁ、実際建てるってなったときは、きみの好みに合わせるけど♡ だから、しっかり考えておいてね♡♡ 理想の間取りとかインテリアとか♡」

「……わたしもちゃんと考えるけど、君と一緒がいいな……」
 
「え? 俺の好みに合わせたいってこと?」

 大きく澄んだ瞳からは、すでに悲しみの影は去っていた。

「そうなんだけど、そうじゃなくて…………。ずっと一緒に住むんだから、どっちか片方の好みだけじゃやだなぁって思ったの。いっぱい話し合って、君もわたしも気に入る素敵なおうちにしたいな……♡♡」

「そういうことか♡ ありがとう♡ 俺たちの理想が詰まった家で一緒に暮らせる日が待ち遠しいね♡♡」

「うん♡」

 と頷くと、彼は素早く視線を走らせ、椅子を引いた。

「…………とりあえず、もう一回座ろっか。ちゃんと休憩したほうが結果的に効率も上がるし。……どうぞ、お姫様?♡」

 彼の言葉で我に返り、プリーツが乱れないように押さえながら着席した。
 
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